医院・クリニックの経営で欠かせないことがお金の管理です。
開業医になると医療行為だけでなく、スタッフ・検査技師の雇用、医療機器の購入・リース、広告宣伝など、さまざまな”お金に関する決断”が必要です。
現在、都市部を中心に医院・クリニックは、供給過多の傾向があります。
そのため、開業すれば勝手に患者さんがやってくるわけではなく、経営者の目線に立って慎重に人材や設備に投資をしないと廃業に追い込まれる可能性があります。
医院・クリニックの経営で怖いのが黒字倒産です。
これは、集患に成功して利益が出ているにも関わらず、手元にある現金が尽きて運転資金不足(資金ショート)により廃業に追い込まれることを言います。
黒字倒産を防ぐには、冒頭でお伝えしたとおり”お金の管理”が大切です。
おおまかな利益だけでなく、手元に残る資金の流れ(キャッシュフロー)を把握することで「どのくらい人材や設備を投資する余裕があるのか?」を正確に測ることができます。
この記事では、医院・クリニックの経営状況を正確に把握するための税理士選びについて解説します。
医院・クリニックにおける顧問税理士の役割
税理士とは、簡単に言えば「税務の専門家」です。
納税者から依頼を受けて税務書類の作成や申告、税金に関する相談を行うことを主な仕事としています。
税理士には、大きく分けて3つの独占業務があります。
税務の代理 | 本来納税者がすべき「税務の申告・申請」を税理士が代理で行います。具体的には「確定申告・青色申告の承認申請」「税務調査の立ち会」」「税務署の更生・決定に不服がある場合に主張や陳述をする」が該当します。 |
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税務書類の作成 | 本来納税者がすべき「税務署類の作成」を税理士が代理で行います。具体的には「確定申告書の作成」「法人税申告書の作成」「償却資産税申告書の作成」「源泉所得税納付書の作成」「法定調書の作成」「源泉徴収票の作成」などが該当します。 |
税務相談 | 納税者の税金に関する相談を受けることです。具体的には「納税額の計算方法」「税金の還付請求の方法」「節税対策」が該当します。 |
これらの税理士業務に関しては、税理士法第51条により
税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行ってはならない。
と規定されています。
そのため、これらの税務業務を外部委託(アウトソーシング)したいのであれば、原則、税理士(税理士法人)に依頼する必要があります。
医院・クリニックが税理士に依頼するメリットは、次のとおりです。
本業に集中できる
医院・クリニックを営む場合、黒字でも赤字でも年1回「税務申告」を行う義務が発生します。
税務申告は、日々の取引を記録する「帳簿付け」から始まります。
帳簿付けは、やり方を覚えてしまえば、そこまで難しい作業ではありません。
しかし、取引件数が増えれば、それだけ時間がかかる作業となり、本業にも影響を与えることになります。
そんなときにスタッフに経理を兼任すてもらうのも一つの手ではありますが、
- 経理のプロではないので”ミスが発生する”リスクがある
- 経理スタッフが突然退職したときに”引き継ぎできないリスク“がある
といった懸念点もあります。
特に税務申告の元のデータとなる「帳簿付け」の間違いや認識不足は、税務調査時に指摘される項目です。
例え、ミスや見解の違いであってもペナルティを課せられる可能性があります。
加算税の種類 | 内容 | 加算税率 |
---|---|---|
過少申告加算税 | 本来の税額より少ない金額で申告した場合 (ミスや見解の違いなど) |
0%(税務調査前に修正申告) 10~15% |
無申告加算税 | 申告期限までに申告しなかった場合 | 5%(税務調査前に修正申告) 15%(50万円以下の部分) 20%(50万円を超える部分) |
重加算税 | 本来の税額より少ない金額で申告した場合 (意図的な事実の隠蔽や仮装など) |
35% 40%(無申告) |
延滞税 | 税金を法定納付期限までに納めていなかった場合 (修正申告等により遅れた場合にも発生します) |
最新の税率はこちら |
基本は過去3年分(悪質な問題が見つかった場合は最大7年分)が調査対象となり、
- 本来納税すべき税額
- 罰金
- 延滞税
を合わせて納めなければなりません。
また、帳簿が法令に則った記載方法ではない場合は、青色申告取り消しにより最大65万円の控除が適用できなくなる可能性があります。
税理士に税務申告の作成を依頼することで決算書・確定申告書に税理士の押印(電子署名)が付き、専門家のチェックによりミスを防げるだけでなく信頼性も高まります。
また、万が一、税務調査が入るときでも各種申告書に記載されている税理士に連絡が入るようになります。
税務調査にも立ち会ってもらうことができ、税金のプロフェッショナルである「税務調査官」と交渉をして追徴課税が発生しないように動いてくれます。
節税対策ができる
日本では所得が高ければ高いほど税率も上がっていく累進課税を採用しています。
次は、国税庁ホームページが公表している所得税の税率です。
課税される所得金額 (課税所得) |
税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
※平成25年から令和19年までは、所得税と復興特別所得税(原則として基準所得税額の2.1%)を併せて申告・納付する必要があります。
厚生労働省が発表する「医療経済実態調査報告」によれば、開業医の平均年収は1,000万円を超えており、高い税金の負担を強いられる可能性があります。
所得税 = 課税所得 × 税率 – 税額控除額 = 1000万円 × 33% – 153万6,000円 = 176万4,000円
さらに上記の所得税に加えて、住民税が約10%かかってきます。
このように税金の負担が大きいときに頼りになるのが税理士です。
一応、税金のことに関しては税務署に無料&匿名で電話相談することもできますが、一般的な手続きの方法しか教えてくれません。
例え、大幅に節税できる余地があっても税務署から「こうすれば、もっと税金を抑えることができますよ。」教えてくれることはないのです。
そのため、具体的な節税方法を聞きたいのであれば、税理士に相談することが一番となります。
節税のアドバイスを受けられるだけでなく、これまで経費にしていなかった部分を経費とすることで毎年の節税効果を期待できます。
当事務所では、法人成りをした場合の節税効果もシュミレーションしながらご提案をすることが可能です。
お金の動きが分かる
医院・クリニック経営では、売上と実際の入金時期に数ヶ月のずれがあるのでお金の動きをしっかりと把握しなければなりません。
まず、医院・クリニックにおける主な収入は、患者からの保険診療報酬です。
保険診療報酬は、窓口で患者から3割(高齢者の場合は1割)を現金で受け取り、残りの7〜9割を「国民健康保険」と「社会健康保険」にレセプト請求することで受け取ることが可能です。
この請求は、診療行為を実施した翌月初めに行い、審査支払機関によって「レセプト(診療報酬明細書)」の内容が審査された後、請求から2ヶ月後に支払われることになります。
つまり、患者の診療行為を実施してから保険診療報酬を全額受け取るまでに2〜3ヶ月かかるということです。
しかし、残り9割の9,000円については、審査支払機関への請求を通して2〜3ヶ月後に受け取ることになります。
そのため、診療報酬の全額を現金で受け取るまでに相当のタイムラグがあるため、その間に資金がショートしないように注意しなければなりません。
一方、医院・クリニックの支出については、診療材料費(注射針、ガーゼなど)の支払いが保険診療報酬の入金より早い時期でやってきます。
また、医療機器を購入するときも注意が必要です。
高額の医療機器などを購入した場合、固定資産として計上をしてから減価償却により毎年分割して少しずつ経費として計上しなければなりません。
そのため、すでに現金として出ていっているにも関わらず、その年に全額経費にできないことから税金の負担が増えて一時的にキャッシュフローが悪化します。
このように医院・クリニック経営では「現金」だけでなく、将来的なお金の動きも読みつつ経営判断をしなければなりません。
税理士に依頼をすれば、年1回の確定申告書の他にも月次試算表を作成してもらうことも可能です。
月次試算表には、医院・クリニックの経営状況を示す「売上」「利益」「現預金」を月単位でタイムリーに知ることが可能です。
来月以降の
- 回収予定の現金
- 支出予定の金額
なども記載されているので「いくらまでお金を使って良いのか?」が分かり、計画的で余裕のある資金繰りができます。
融資の相談ができる
医院・クリニックの開業資金は、運転資金も含めて5,000〜1億円以上かかることもあり、なかなか個人で用意できる金額ではありません。
また、開業後も不足した運転資金を補ったり、最新の医療機器の購入するなどで金融機関(銀行、信用金庫、信用組合など)や日本政策金融公庫などから融資を受ける機会が出てくることがあります。
税理士は、顧問先の融資のお手伝いをする機会が多いことから、企業融資を受けるためのノウハウ・経験が蓄積しやすい状況にあります。
金融機関から融資で必ずチェックされる
- 事業計画
- 貸借対照表
- 損益計算書
などから審査のポイントとなる項目についてアドバイスを受けて、銀行からお金を借りやすい決算書の作成に協力してもらえます。
その他にも融資審査で重要視される「資金使途」「返済計画」「事業計画」などについても過去の成功事例から最適な書き方についてアドバイスを受けることが可能です。
しかし、開業資金のように多額の融資を受けるときは、収益性や成長性の予想を根拠を持って示さなければなりません。
もし、何の事前準備もなく申請をすれば、融資に通らなかったり、金利などの条件面が悪くなり無駄にお金を支払うことにも繋がります。
税理士など融資経験のある専門家に相談すれば、質の高い事業計画書を作成することが可能です。
医院・クリニックに強い税理士に頼もう
一口に税理士と言っても全ての税金に精通している訳ではなく、得意分野と苦手分野が存在します。
これは、お医者さんごとに「内科」「外科」「眼科」「耳鼻咽喉科」「皮膚科」「脳神経外科」など、専門分野がそれぞれ異なっているのに似ています。
当然のことながら医院・クリニックが税理士に依頼するときは、医療業界に詳しい税理士を選ぶべきです。
その他、
- 法人や個人事業主の税金の申告
- 節税対策
- 税務調査の対応
- 金融機関などからの借り入れ・資金調達
- 経営管理・経営コンサルティング
- 相続税・贈与税・事業継承・M&A
- 国際税務・海外税務
など、それぞれの得意分野から選ぶといいでしょう。
当事務所では、医療・クリニックの顧客を抱えており、豊富な実績があります。
税務業務としては、
- 節税対策
- 税務調査
- 金融機関からの融資
に大きな強みを持っており、過去数百件以上のノウハウ、税務調査の立ち会い経験から合法的に税金の負担を減らすご提案をすることが可能です。
また、当事務所では、医療経営コンサルティング業務も承っております。
昨今、人口減少や診療報酬抑制などにより医療業界も厳しい方向に進んでいる中、税務から経営面までトータルでサポートしますのでまずはご相談ください。
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。