会社を設立して社長になると、給与の代わりに”役員報酬“を受け取ることになります。
役員報酬は、従業員が受け取る”給与”と同じく、税法上は給与所得として扱われます。
そのため、役員報酬から
- 税金(所得税、住民税など)
- 社会保険料
などが毎月の役員報酬から源泉徴収として天引きされます。
この記事では、役員報酬で実践できる”手取りを増やせる”節税対策をまとめました。
目次
1、役員報酬とは別に通勤手当を支給する
一番簡単にできる節税対策が”役員報酬とは別に通勤手当を支給する”です。
自宅から会社まで距離があり、
- 公共交通機関(電車、バス、新幹線など)
- マイカー、バイク、自転車
で通勤している場合は、役員であっても通勤手当を支給することが可能となります。
例えば、役員報酬50万円から役員報酬48万円(別途通勤手当2万円を支給)に変更したとき総支給額は同じですが、1年間の税金(所得税、住民税)を減らすことができます。
年収 | 通勤手当 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 |
---|---|---|---|---|
600万円 | 0円 | 20万8,300円 | 30万9,000円 | 86万4,000円 |
576万円 | 24万円 | 18万8,700円 | 28万8,900円 | 86万4,000円 |
※独身の場合の税金となります。社会保険料は、通勤手当も含めて計算することになります。
- 年間の手取り額:461万8,700円 → 465万8,400円(通勤手当あり)
今後、5年間で19万8,700円の手取り額が増える計算です。
2、役員社宅で家賃の50%以上を経費にする
役員が個人で契約しているマンション・アパートを会社名義に変更することで節税対策ができます。
例えば、家賃10万円の80%を会社の負担にして、役員報酬480万円から役員報酬384万円(別途家賃96万円を会社負担)に変更した。
このとき、実質的な総支給額は同じですが、1年間の税金(所得税、住民税)および社会保険料を大幅に減らすことができます。
役員報酬 | 会社の家賃負担 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 |
---|---|---|---|---|
480万円 | 0円 | 12万7,900円 | 23万2,000円 | 69万1,200円 |
384万円 | 96万円 | 8万1,700円 | 16万7,500円 | 55万296円 |
※基礎控除を適用しています。所得税には復興特別所得税を加算しています。社会保険料は14.4%で計算しています。会社や地域によって違ってきますので目安として考えてください。
- 年間の手取り額(家賃を差し引いた場合):254万8,900円 → 280万504円
今後、5年間で125万802円の手取り額が増える計算です。
3、配偶者を非常勤役員にする
同族会社(家族経営の会社)では、妻を役員としているケースが多くあり、世帯単位で税金の負担を減らすことができます。
例えば、役員報酬を「夫1人に50万円」から「夫に40万円、妻に10万円」に変更した場合、世帯単位の総支給額は同じですが、1年間の税金(所得税、住民税)は大幅に減らすことができます。
年収 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 | |
---|---|---|---|---|
夫 | 600万円 | 16万9,800円 | 27万6,000円 | 86万4,000円 |
- 年間の手取り額:469万200円
- 月間の手取り額:約39万円
年収 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 | |
---|---|---|---|---|
夫 | 480万円 | 9万4,300円 | 19万4,700円 | 69万1,200円 |
妻 | 120万円 | 8,500円 | 2万4,500円 | 0円 |
- 年間の手取り額:498万6,800円
- 月間の手取り額:約41万6,000円
家族で所得を分け合うことで累進課税による最大45%の高い所得税率を回避。
妻を扶養にすることで社会保険料の負担をゼロにすることも大きなポイントです。
ただし、役員報酬の金額によっては、配偶者を「常勤役員」にした方が節税効果が高くなることもあります。
4、倒産防止共済(経営セーフティ共済)を活用する
倒産防止共済とは、不測の事態が発生したとき、無担保・保証人なしでお金を借りることができる国の共済制度です。
年間240万円を上限に掛金を全額損金算入することができ、上手く活用することで”法人税”と”個人の税金”の両方で大きな節税効果が得ることができます。
例えば、倒産防止共済の掛金を10万円として、同じ額を役員報酬から減額。将来、退職金として受け取るようにします。※独身の場合の税金となります。
年収 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 |
---|---|---|---|
600万円 | 20万8,300円 | 30万9,000円 | 86万4,000円 |
年収 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 |
---|---|---|---|
480万円 | 12万7,900円 | 23万200円 | 69万1,200円 |
所得を減らしたことで「税金」および「社会保険料」の合計負担額が26万500円も減りました。
これを6年間続けたとすると、
- 税金・社会保険料の削減額合計 → 156万3,000円(= 26万500円 × 6年)
- 倒産防止共済の掛金総額 → 720万円(= 120万円 × 6年)
となります。
この掛金の720万円を役員退職金として支給することにします。
役員退職金の税金は安い
ここで肝となるのが役員退職金の税金の安さです。
役員退職金は、
- 老後生活の原資になる
という側面から役員報酬と比べて、税金が非常に優遇されています。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × 勤続年数 |
20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 – 20年) |
例えば、役員退職金1,500万円、勤続年数30年とすれば、税金はかかってきません。
また、役員退職金には社会保険料がかからないのも大きなメリットです。
普通に役員報酬を受け取るより、少しでも多く役員退職金に回したほうが結果的に税金や社会保険料の負担を減らすことができてお得です。
ただし、会社の規模や勤務実態などに対して、あまりに高額な役員退職金を支給すると「不相当に高額」とみなされて損金算入として認められない可能性があるので注意しなければなりません。。
5、小規模企業共済を活用する
小規模企業共済とは、個人事業主やフリーランス、小さな会社の経営者・役員のための退職金制度です。
年間84万円を上限に掛金を所得控除することができ、上手く活用することで大きな節税効果を得ることができます。
次は、中小機構が公表している小規模企業共済の節税効果表です。
課税される 所得金額 |
加入前の税額 | 掛金月額ごとの加入後の節税額 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
所得税 | 住民税 | 掛金月額 1万円 |
掛金月額 3万円 |
掛金月額 5万円 |
掛金月額 7万円 |
|
200万円 | 104,600円 | 205,000円 | 20,700円 | 56,900円 | 93,200円 | 129,400円 |
400万円 | 380,300円 | 405,000円 | 36,500円 | 109,500円 | 182,500円 | 241,300円 |
600万円 | 788,700円 | 605,000円 | 36,500円 | 109,500円 | 182,500円 | 255,600円 |
800万円 | 1,229,200円 | 805,000円 | 40,100円 | 120,500円 | 200,900円 | 281,200円 |
1,000万円 | 1,801,000円 | 1,005,000円 | 52,400円 | 157,300円 | 262,200円 | 367,000円 |
例えば、所得金額が1,000万円の場合は、掛金を毎月7万円(年間84万円)支払うことにより年間36万7,000円の節税効果を得ることができます。
解約手当金は課税対象となりますが、
- 退職所得
- 公的年金等の雑所得
といった税制が優遇されている方法で受け取ることが可能です。
掛金以上のお金を受け取れる
小規模企業共済では、中小機構による安全かつ効率的な資産運用で掛金以上のお金を受け取ることができます。
掛金の納付月数 | 共済金A | 共済金B | 準共済金 |
---|---|---|---|
5年 (掛金合計額60万円) |
62万1,400円 (+2万1,400円) |
61万4,600円 (+1万4,600円) |
60万円 (+0円) |
10年 (掛金合計額120万円) |
129万600円 (+9万600円) |
126万800円 (+6万800円) |
120万円 (+0円) |
15年 (掛金合計額180万円) |
201万1,100円 (+21万1,100円) |
194万400円 (+14万400円) |
180万円 (+0円) |
20年 (掛金合計額240万円) |
278万6,400円 (+38万6,400円) |
265万8,800円 (+25万8,800円) |
241万9,500円 (+1万9,500円) |
※掛金1万円ごとの受給額です。
※解約の理由ごとに受給額が変わってきます。
※共済金A・共済金Bは6ヶ月未満、準共済金は12ヶ月未満の解約時の受給額は0円(掛け捨て)となります。
最後に
今回は、役員報酬の手取りを増やす節税対策についてまとめてみました。
もちろん、ここでは紹介しきれなかったり、ホームページで公開できない節税対策は、まだまだ数多くあります。
税金の世界では「知らない人が損をして、知っている人が得をする」制度が数多くあり、税務署も積極的には教えてくれません。
この記事を読んでいる大多数の経営者は「一生懸命と知恵を絞って努力して稼いだお金を税金で失いたくない」というのが本音かと思います。
そこで”節税対策”です。
弊社では、税金を安くしたいがあまり、虚偽や不正を働くことは長期的にマイナスにつながると考えていますが、意味のある節税対策は積極的に行うべきだと考えています。
大阪、京都、神戸限定にはなりますが、「認められた方法かつ最小限の手間で税金を安くするにはどうすればいいの?」などありましたら、私たちにお気軽にご相談ください。
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。