従業員を雇用していると年末調整が必要になります。
年末調整とは、従業員に支給する給与・賞与の所得税等の過不足を再計算・精算する手続きです。
年末調整は、所得税法で雇用主の義務となっており、期日までに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出した従業員に対しては、必ず行わなければなりません。
会社が従業員の年末調整を怠った場合は、
- 10年以下の懲役
- 200万円以下の罰金
という重い罰則が課せられる可能性があるので注意が必要です。
しかしながら、年末調整の手続きには、各種控除も反映させて計算する必要があり、所得税に関する知識も求められます。
この記事では、年末調整(源泉徴収票の作成)を税理士に依頼するメリットなどについて解説します。
年末調整とは
まずは、年末調整についておさらいしましょう。
年末調整とは、
- 1月から12月の間に給与等から源泉徴収した所得税等の合計額
- その人が1年間に納めるべき所得税等の合計額
との差額を精算する手続きをいいます。
そのため、年末調整で「源泉徴収した所得税等の合計額」と「1年間に納めるべき所得税等」を計算して過不足を「還付」または「徴収」する必要があります。
対象者
年末調整は「会社などに1年間勤務」「年の途中で就職してから年末まで勤務」している場合は、原則として対象となります。
ただし、次のいずれかに当てはまる場合は、年末調整の対象外です。
- 年収2,000万円を超える給与を受け取っている人
- 災害減免法により源泉徴収の徴収猶予や還付を受けている人
年末調整のしかた
会社または個人事業主が従業員に対して行う年末調整のしかたは、次のようになります。
1、中途就職者から前職の源泉徴収票を回収する
年末対象の対象となる給与等は、前職も含めて1月から12月までに受け取った給与等となります。
そのため、中途就職者が前職で給与等を受け取っていた場合は、前の会社の給与等も含めて年末調整をする必要があります。
2、従業員から年末調整の申告書類を回収する
年末調整を行うには、従業員に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」「給与所得者の配偶者控除申告書」「給与所得者の保険料控除申告書」の3つを記入してもらって回収する必要があります。
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 扶養控除、障害者控除、勤労学生控除、寡婦(寡夫)控除を受けるための書類です。 |
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給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書 | 基礎控除、配偶者控除(配偶者特別控除)、所得金額調整控除を受けるための書類です。所得金額が2,400万円以下であれば、基礎控除48万円を受けれます。配偶者の所得が38万円以下(令和2年分以降は48万円以下)であれば「配偶者控除」38円超123万円以下(令和2年分以降は48万円超133万円以下)であれば「配偶者特別控除」を受けることが可能です。また、給与の収入金額の総額が850万円を超えていれば、所得金額調整控除を適用可能です。 |
給与所得者の保険料控除申告書 | 生命保険料控除、地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除を受けるための書類です。 |
源泉徴収票 ※該当者のみ |
転職により中途採用した人が対象です。前の勤務先で所得税等が源泉徴収されている可能性があるため、合算して年末調整するための書類です。 |
住宅借入金等特別控除申告書、融資額残⾼証明書、年末残⾼等証明書 ※該当者のみ |
自宅を新築・中古で購入または増改築・リフォームした人が対象です。住宅ローン控除により税金の還付(年末時点の住宅ローン残高の0.7%)を受けるために必要となる書類となります。 |
※令和2年度税制改正に伴って「給与所得者の配偶者控除申告書」の書式が大幅に変更しました。
3、年末調整の計算方法
従業員に記入してもらった申告書類に基づいて所得税等の計算を行います。
次のA~Gの手順で年末調整の計算をしましょう。
A、給与の合計額を計算する
1月1日から12月31日までの間に支払うことが確定した給与等の合計額を計算します。
B、給与所得控除後の給与額を求める
給与等の合計額から給与所得控除額を差し引きます。
給与所得控除額は、源泉所得税に関する改正により「2019年分まで」「2020年分以降」で次のように変わってきます。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 | |
---|---|---|
改正前 (2019年分まで) |
改正後 (2020年分以降) |
|
162.5万円以下 | 65万円 | 55万円 |
162.5万円を超え 180万円以下 | 収入金額 × 40% | 収入金額 × 40% - 10万円 |
180万円を超え 360万円以下 | 収入金額 × 30% + 18万円 | 収入金額 × 30% + 8万円 |
360万円を超え 660万円以下 | 収入金額 × 20% + 54万円 | 収入金額 × 20% + 44万円 |
660万円を超え 850万円以下 | 収入金額 × 10% + 120万円 | 収入金額 × 10% + 110万円 |
850万円を超え 1,000万円以下 | 195万円 | |
1,000万円超 | 220万円 |
その結果、給与所得控除後の給与の額は、520万円(= 700万円 - 180万円)となります。
C、所得控除を差し引く
従業員から回収した申告書類を確認しながら「給与所得控除後の給与の額」から「所得控除(扶養控除、配偶者控除、生命保険料控除など)」を差し引きます。
D、所得税の計算をする
(A)から(B)と(C)を差し引いた金額(1,000円未満は切り捨て)に所得税の税率を当てはめて所得税を算出します。
所得税は、国税庁が公表している「所得税の速算表」を用いて求めることが可能です。
課税される所得金額 (課税所得) |
税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
所得税 = 課税所得 × 税率 – 税額控除額 = 500万円 × 20% – 42万7,500円 – 0円 = 57万2,500円
E、住宅者入金特別控除を差し引く
年末調整で住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)を受ける場合は、所得税額から直接差し引きます。
F、復興特別所得税を加える
個人で所得税を納める義務のある方は、復興特別所得税も併せて納める義務があります。
先ほど算出した所得税額に「1.021」をかけることで所得税および復興特別所得税を求めることが可能です。
2013年(平成25年)1月1日から2037年(令和19年)12月31日までの25年間にわたって、所得税額の2.1%が復興特別所得税として課税されることになります。
G、1年間の源泉徴収税額と比較して過不足を「還付」または「徴収」する
これで1年間に納めるべき所得税および復興特別所得税の合計額を求めることができました。
実際、1月から12月の間に給与等から源泉徴収した所得税等の合計額と比較して「還付」または「徴収」します。
- 源泉徴収した所得税等 > 1年間に納めるべき所得税等 → 還付
- 源泉徴収した所得税等 < 1年間に納めるべき所得税等 → 徴収
となります。
年末調整は税理士の独占業務
年末調整は、税理士法で定められた税理士の独占業務の一つです。
そのため、雇用主が年末調整を行えない場合は、税理士に依頼をして「源泉徴収票」や「法定証書」の作成をしてもらう必要があります。
年末調整は社会保険労務士に依頼できない
従業員の給与や社会保険に関しては、労働・社会保険の問題の専門家である「社会保険労務士」に任せているケースも多いでしょう。
しかし、年末調整は、所得税を細かく計算する必要のあることから”税理士の独占業務”と位置づけられており、社会保険労務士が年末調整を行うと税理士法に抵触します。
原則、年末調整について社会保険労務士が行えるのは、給与額や社会保険料の算出までとなります。
年末調整を税理士に依頼するメリット
年末調整を税理士に頼むことで主に3つのメリットがあります。
1、本業に専念できる
年末調整には、従業員からの申告書類を確認してから所得税を計算する手間が生じてきます。
年末の忙しい時期と重なることもあり、ついつい後回しにしがちですが、1月31日までに必ず行わなければなりません。
また、従業員にとっても「副業」や「ふるさと納税」などで確定申告を行う必要のある際は、源泉徴収票の内容を転記する必要があり、会社から発行されないと困ったことになります。
税理士に年末調整を依頼することで慣れない作業で時間を奪われることなく、本業に専念することが可能です。
2、正確な年末調整ができる
税理士に年末調整を依頼すれば、手間が省けるだけでなく、早く正確に年末調整を完了することが可能です。
3、経理コストを減らすことができる
税理士に年末調整も含めて税務関係を任せることで経理コストを下げられる可能性があります。
経営者自身で経理の事務処理をする余裕がない場合は、経理担当を雇う必要が生じてきますが、当然のことながらコストが発生します。
経理担当の直接的な人件費だけでなく、
- 求人広告費や人事担当の人件費などの”採用コスト“
- 経理担当に対する”教育コスト“
- パソコンや作業スペースなどの”諸経費“
なども無視できません。
また、自社で経理担当を一度雇用すると解雇するのは困難であり、会社の成長期に増やした経理担当を業績悪化に伴って減らすのは難しくなります。
税理士に依頼すれば、会社の規模に応じて費用が変動するため、会社の売上に占める経理コストの割合をほぼ一定にすることが可能です。
顧問税理士に依頼できる仕事内容(業務内容)は、次の記事で詳しく紹介しています。
最後に
従業員を雇用しているなら年末調整は避けては通れない重要な業務です。
しかし、年末の忙しい時期と重なる年末調整は、思った以上に手間と時間がかかる作業となります。
そんなときに頼りになるのが税理士です。
税理士に依頼することで税務関係の手間を省いて正しい申告ができたり、今まで気がつなかった節税対策ができる可能性もあります。
売上が伸びてきて業務が忙しくなってきたなら一度税理士を検討してみてはいかがでしょうか?
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。