倒産防止共済

【倒産防止共済】個人事業主の不動産賃貸業は節税効果がゼロ!法人化を検討しよう

個人事業主で不動産賃貸業を営んでいるけど、業績が上がって税金の負担が増えてきた。

そんなときは少しでも税金の負担を抑えるために節税対策を考えていくことになります。

インターネットで節税対策について調べると数多くの情報が出てきますが、その中で目にすることが多いのが倒産防止共済(経営セーフティ共済)です。

倒産防止共済では、

  • 毎月20万円(年間240万円)の掛金を全額損金算入できる
  • 40ヶ月(3年4ヶ月)以上納めると掛金の全額が戻る

といったメリットから上手く活用することで大きな節税効果を得ることができます。

倒産防止共済の節税効果は?年間240万円を全額損金できる

しかしながら、もし、あなたが個人事業主で不動産賃貸業を営んでいるなら注意が必要です。

倒産防止共済の掛金は不動産所得の経費にできない

先に言っておくと、個人事業主の場合は、倒産防止共済の掛金を不動産所得の経費にできません。

このことは、倒産防止共済を運営する中小機構のホームページにも明記されています。

個人事業の場合、事業所得以外の収入(不動産所得等)には、掛金の必要経費としての算入が認められませんのでご注意ください。

出典:中小機構「経営セーフティ共済」

芦屋会計
原則、倒産防止共済の掛金は、事業所得でのみ損益通算することが可能です。

そのため、個人事業主の不動産賃貸業で倒産防止共済を活用したい場合は、不動産を貸して得られる”不動産所得“だけでなく、事業所得を得る必要があります。

例えば、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業などで得られる収入が事業所得に該当します。

なお、サラリーマンの副業収入は、雑所得と判定されやすいことから注意が必要です。

関連記事:【副業の節税対策】事業所得の赤字と給与所得を損益通算できる?

不動産賃貸業を法人化すれば経費にできる

倒産防止共済の節税対策は、不動産賃貸業を法人化することで可能になります。

なぜなら、同じ不動産から得られる家賃でも個人事業主なら不動産所得ですが、法人なら事業所得になるからです。

個人事業主 法人
家賃収入 1,500万円 1,500万円
経費 600万円 600万円
倒産防止共済の掛金 0円 240万円
利益 900万円 660万円
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倒産防止共済を活用することで、利益を年間240万円も圧縮できました。

もちろん、その分、税金の負担を減らすことができます。

ただし、倒産防止共済は、解約時に解約手当金として受け取った”掛金の全額(最大800万円)”に対して、税金がかかってしまうデメリットがあります。

マンション・アパートを経営しているのであれば、おおよそ12年周期で大規模修繕により多額の費用が発生してくるので、そのときに損益通算により相殺できるように計画を立てておきましょう。

関連記事:倒産防止共済の解約手当金(解約返戻金)の返戻率・受取時の税金を解説

共済金の貸付対象とならない可能性がある

本来、倒産防止共済は、

  • 取引先が倒産した場合
  • 自社の都合で急に資金が必要になった場合

に“無担保・保証人なし”という好条件で資金を借り入れできるものです。

ただし、不動産賃貸業のみを営んでいる場合は、共済金の貸付の対象とならない可能性があります。

本制度は、取引先事業者の倒産等により生じる回収困難な売掛金債権等に対しての貸付制度です。売掛金債権等が生じない、一般消費者を取引先とする事業者、金融業者および不動産業者などの業種は、取引先事業者に対する売掛金債権等が生じず、共済金の貸付けの対象とならない場合がありますので、加入に際してはご注意ください。

出典:中小機構

この辺りは、各々の事情によって異なってきますので、不動産賃貸業で倒産防止共済の手厚い保険を受けたい場合は、一度確認した方が良いでしょう。

不動産賃貸業を法人化するメリット

不動産賃貸業を法人化することで、倒産防止共済の掛金を経費にして節税することが可能です。

それだけでなく、法人化することにより様々なメリットがあります。

1、所得税の累進課税を回避できる

皆さんご存知のとおり、日本では所得が高ければ高いほど税率も上がっていく累進課税を採用しています。

次は、国税庁ホームページが公表している所得税の税率です。

所得税の速算表
課税される所得金額
(課税所得)
税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 9万7,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 42万7,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 63万6,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 153万6,000円
1,800万円を超え4,000万円以下 40% 279万6,000円
4,000万円超 45% 479万6,000円

不動産所得が少ないうちは問題ありませんが、課税所得が900万円を超えると税率が一気に上がっていくことが分かります。

さらに上記の所得税に加えて、

  • 住民税が10%ほど
  • 社会保障費が14.4%ほど

がかかってきます。

つまり、不動産所得が一定水準を超えたとき、いくら頑張って不動産所得を増やしても、半分以上が税金や社会保障費で消えていく状態になってしまうのです。

特に一般企業で働きながらマンション・アパートで収入を得ている方は、給与所得と不動産所得が合算されるため、すぐに所得税の税率が上がってしまいます。

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例えば、給与所得が600万円、不動産所得が600万円の場合、合算されて1,200万円の所得として計算されます。

法人化をすれば、不動産による所得を「個人」と「法人」に分けることが可能。

例えば、課税所得1,500万円について

  • 個人に900万円
  • 法人に600万円

とすれば、個人の課税所得が900万円超になった場合にかかる高い税率を回避することができます。

参考までに法人税の税率は次のとおりです。

年間所得800万円以下の部分 年間所得800万円超の部分
中小法人 19%(15%) 23.2%
普通法人 23.2% 23.2%

※()の税率は、2019年3月31日までに開始する事業年度に適用されます。

ここに法人住民税、法人事業税が追加でかかってきますが、個人の所得税(課税所得900万円超)にかかる高い税率と比べたら、税金の負担が軽くなるケースは高いです。

2、給与所得控除が使える

個人事業主で不動産賃貸業を専業で営んでいる場合は、最大65万円の控除しか受けることができません。

個人事業主の不動産所得における控除
事業の規模 控除額
白色申告 0円
青色申告 10万円
青色申告 5棟10室以上 65万円

法人化をして会社から役員報酬(給与所得)として支払うと、給与所得控除を適用することが可能になります。

役員報酬に適用できる給与所得控除額

次は、国税庁のホームページが公表している給与所得控除です。

給与等の収入金額
(給与所得の源泉徴収票の支払金額)
給与所得控除額
1,800,000円以下 収入金額 × 40%
650,000円に満たない場合には650,000円
1,800,000円超 3,600,000円以下 収入金額 × 30% + 180,000円
3,600,000円超 6,600,000円以下 収入金額 × 20% + 540,000円
6,600,000円超 10,000,000円以下 収入金額 × 10% + 1,200,000円
10,000,000円超 2,200,000円(上限)

※2019年4月30日時点の情報となります。

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例えば、役員報酬が1,000万円超に達したとき、給与所得控除220万円を差し引くことが可能。

その分、税金を計算する基となる課税所得を抑えることができ、個人の税金も安くなります。

3、退職金支給時に税金を大幅に抑えられる

冒頭でお伝えしたとおり、倒産防止共済では毎月20万円(年間240万円)の掛金を全額損金算入できるメリットがあります。

一方で解約時の解約手当金(解約返戻金)は「雑収入」として計上しなければなりません。

そこで解約返戻金を受け取る年度に同等金額の経費をぶつけることが重要になります。

ここでよく用いられるのが”退職金”です。

なぜなら、会社の役員に退職金を支給した場合、驚くほど税金を安くできるからです。

退職金は、

  • 老後生活の原資になる

という側面から役員報酬と比べて、税金が非常に優遇されています。

次は、退職者の勤続年数をもとに計算される「退職所得控除額」の計算表です。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円 × 勤続年数
20年超 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 – 20年)

例えば、退職金が720万円だとすると

  • 勤続年数が10年:720万円 – 400万円 × 1/2 = 160万円
  • 勤続年数が15年:720万円 – 600万円 × 1/2 = 60万円
  • 勤続年数が18年:720万円 – 720万円 = 0円

が課税対象となる退職所得となります。

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原則として個人事業主と家族専従者には、退職所得控除が認められていません。

倒産防止共済を退職金で相殺して税金を抑えたいなら、法人化する必要があります。

4、赤字を10年間繰り越せる

あまり考えたくはありませんが、不動産賃貸業を営んていると、

  • 空室が埋まらない
  • 突発的な修繕費が必要になった
  • 借入金利が上昇した

など、さまざまな予期せぬ理由により赤字が続くこともあります。

そんなときは、赤字を翌年以降に繰り越して、将来の黒字と相殺することが可能です。

ただし、個人事業主と法人では、赤字を繰り越せる年数が大きく違います。

個人事業主 法人
赤字の繰り越し
(繰越欠損金)
3年間 9年間
※平成30年4月以降に開始する事業年度は10年間
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例えば、不動産賃貸業による収益が

  • 2019年 → 100万円の赤字
  • 2020年 → 100万円の黒字

となった場合、本来ならば2020年度の黒字に対して税金がかかってきます。

しかし、この欠損金の繰越控除制度を利用することにより「2019年の赤字」と「2020年の黒字」を相殺することが可能。

その結果、収益がゼロとなり、所得税の負担もゼロとなります。

最後に

現在、個人事業主で不動産賃貸業を営んでいる。

順調に規模が拡大してきたので、節税対策のために倒産防止共済を利用したい。

そんなときは、

  • 所得税の累進課税を回避できる
  • 給与所得控除が使える
  • 退職金支給時に税金を大幅に抑えられる
  • 赤字を10年間繰り越せる

といったメリットと合わせて法人化を検討することをおすすめします。

ただし、法人化には、会社の設立に伴う費用、赤字になっても支払う必要のある住民税(均等割)、社会保険の加入義務など、様々なコストが追加されるのも事実です。

不動産賃貸業の事業規模によっては損をしてしまう可能性があるのです。

だからこそ、法人化をする前に年間でどのくらい手元に残るお金が増減するのか、しっかりとシミュレーションする必要があります。

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