「個人年金保険の受け取り方はどれがいいだろう?」
そんな疑問を持っている方は多いのではないでしょうか。
個人年金保険とは、国の社会保障制度である公的年金(国民年金、厚生年金保険)にプラスして、自分で準備する私的年金です。
老後2000万円問題やインフレによる年金受給額の目減りなどで老後資金の不安が広がる中、加入者数は右肩上がりに増加しています。
この記事では、個人年金保険の受取方法ごとの税金について解説していきます。
目次
個人年金保険の受取方法
個人年金保険の受取方法は、大きく分けて2種類あります。
※個人年金保険の契約時や年金開始前に選択・変更が可能です。
1、一括受取
個人年金保険を一括で受け取る方法です。
契約時に定めた年齢に達したときに積み立てた年金をまとめて一度に受け取れます。
2、年金受取
個人年金保険を分割で受け取る方法です。
契約時に定めた年齢を過ぎたときに一定の間隔(年1回、2回、6回、12回など)で年金の受け取りができます。
また、年金受取の中でもいくつかの種類があります。
確定年金 | 契約時に定めた一定期間(5年、10年、15年など)は、被保険者の生死に関係なく年金を受け取れます。※被保険者が死亡した場合は、遺族が年金または一時金を受け取れます。 |
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有期年金 | 契約時に定めた一定期間(5年、10年、15年など)は、被保険者が生存している限り年金を受け取れます。 |
終身年金 | 被保険者が生存している限り、年金を受け取れます。 |
※確定年金、終身年金については、保険者の生死にかからわず一定期間年金を受け取れる保証付きの商品もあります。
その他、夫と妻のいずれかが生存している限り年金を受け取れる夫婦年金もあります。
個人年金保険の受け取り方で税金の種類が異なる
個人年金保険の受け取り時は、所得として扱われることから税金がかかります。
注意すべきは「一括受取」と「年金受取」のどちらを選択するかで課税される税金の種類が異なる点です。
詳しくは、次の比較表をご覧ください。
一括受取 | 年金受取 | |
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課税区分 | 一時所得 | 雑所得 |
課税方式 | 総合課税 | 総合課税 |
特別控除 | 50万円 | なし |
課税所得の計算方法 | (総収入金額 - 払込保険料総額 - 50万円)× 1/2 | 総収入金額 - 必要経費 ※必要経費は「1年間の年金受取額 × 払込保険料総額/年金受取合計額」で計算できます。 |
一括受取では、総収入金額から払込保険料総額と特別控除50万円を差し引いた金額の半分が課税所得です。
年金受取では、総収入金額から必要経費を差し引いた金額が課税所得となり、一括受取のような50万円の特別控除は設けられていません。

具体的には、給与所得、事業所得、不動産所得、譲渡所得、利子所得、配当所得、一時所得、雑所得の合計8種類が総合課税になります。
受取人によっては贈与税が発生する
個人年金保険の受取人によっては贈与税が発生することから注意が必要です。
例えば、
- 契約者:夫
- 被保険者:妻
- 受取人:妻
に指定している場合は、契約者と受取人が違うことから初年度に贈与税が発生することになります。
贈与税は、年金受給権の評価額から110万円を差し引いた金額に10~55%の累進課税が適用されます。
年金受給権の評価額は「解約返戻金」「一括受給時の金額」「予定利率に基づき算出された金額」のうち最も大きい金額であり、想像以上に高額な贈与税がかかるケースもあります。
余計な贈与税の負担を回避するためにも契約者と受取人の名義設定は統一しておくことをおすすめします。

例えば、
- 契約者:夫
- 被保険者:夫
- 受取人:夫
で契約をしていた。
このときに夫が亡くなって受取人が夫 → 妻になった場合は、相続税が発生します。
ただし、契約者が夫、被保険者が妻など、契約者と被保険者が異なる場合は、贈与税が発生するので注意が必要です。
個人年金保険の税金を計算シミュレーション
ここからは、個人年金保険の税金を計算シミュレーションします。
条件は、
- 加入年齢:30歳
- 払込期間:60歳まで(30年間)
- 月額保険料:2万円
- 保険料払込総額:720万円(=2万円 × 30年間)
- 年金受取期間:10年間
- 一括受取額:777.6万円
- 年金受取額:年間78.48万円 × 10年間(総額784.8万円)
とします。
※返戻率は一括受取108%、年金受取109%で計算しています。保険会社や契約時期によって返戻率は増減するので予めご了承ください。
一括受取(一時所得)
個人年金保険を一括受取する場合の課税所得は、次のとおりです。
課税所得 =(総収入金額 - 払込保険料総額 - 50万円)× 1/2 =(777.6万円 - 720万円 - 50万円)× 1/2 = 3.8万円

年金受取(雑所得)
個人年金保険を一括受取する場合の課税所得は、次のとおりです。
必要経費
必要経費 = 年金受取額 × 払込保険料総額/年金受取総額 = 78.48万円 × 720万円/784.8万円 = 72万円
課税所得
必要経費 = 総収入金額 - 必要経費 = 78.48万円 × 72万円 = 6.48万円

個人年金保険は一括受取と年金受取のどっちがお得?
結局のところ個人年金保険は一括受取と年金受取のどっちがお得でしょうか?
税負担の観点から言えば、一括受取を選択したほうが税金の負担が軽減しやすいです。
しかし、年金受取では1年目の受取がスタートした後でも運用が続けられるため、受取総額が多くなるケースが多くなっています。
それぞれのメリットをまとめると次のとおりです。
一括受取 | ・税金の負担が軽くなるケースが多い ・まとまった資金を一度に得られて、ローン返済や投資などに活用できる |
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年金受取 | ・受取総額が多くなるケースが多い ・定期的に受け取れるため、家計の管理がしやすい |
その他、個人年金保険には老後資金の確保だけでなく、個人年金保険控除を受けられるメリットもあります。
この控除は、年間に支払った保険料に応じて適用され、
- 所得税:最大4万円
- 住民税:最大2万8,000円
まで受けることができます。
控除額自体はそれほど大きくありませんが、所得が高くて累進課税(所得が増えるほど税率が上がる)の対象になっている方にとっては税率の高い部分の所得を圧縮できるため、実質的な節税効果は大きくなることがあります。
この記事の監修者

尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。