会社の役員になると、給料の代わりに”役員報酬“を受け取ることになります。
役員報酬は、
- 会社財産の毀損(お手盛りの弊害)
- 利益調整(節税対策)
などを防ぐために厳しく規制されており、基本的に年1回の定時株主総会でしか変更が認められません。
しかしながら、「どのような事情があっても役員報酬を変更できない」となると、会社にとっては大きな不利益となることもあります。
そこで法人の所得等について定める法人税法では、一定の条件下に限って役員報酬の変更を例外的に認めています。
この記事では、役員報酬の変更が認められる条件の一つである「業績悪化改定事由」についてまとめました。
目次
業績悪化改定事由とは
業績悪化改定事由とは、
- 会社の経営状況が著しく悪化
- 上記に類するもの
により、やむを得ず役員報酬を減額しなければならない事情を言います。
このときは、例外的に期の途中であっても役員報酬の変更(減額のみ)が認められます。
国税庁ホームページでは、次のように「業績悪化改定事由」が定義されています。
その事業年度においてその法人の経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由
国税庁:役員給与に関するQ&A
業績悪化改定事由には「客観的な事情」が必要となる
ここで注意していただきたいのが、業績悪化改定事由と認められるためには、原則、第三者による「客観的な事情」が必要となる点です。
具体的には、
- 株主との関係
- 取引銀行との関係
- 取引先等の関係
- 得意先との関係
などが当てはまります。
株主との関係
こちらは、経営状況が著しく悪化したため、株主との関係上、経営上の責任から役員報酬を減額せざるを得なくなった場合となります。
※ただし、同族企業(創業者の家族や親族など、特定の親族が株の大半を保有している企業)の場合、安易に「株主との関係」を理由に役員報酬を減額すると、税務署から否認される可能性があるので注意が必要です。
取引銀行との関係
こちらは、経営状況が著しく悪化したため、取引銀行とのリスケジュール(金利の引き下げ、返済期間の延期など)が行われ、その中で役員報酬の減額が要請された場合となります。
取引先等との関係
こちらは、経営状況が著しく悪化したため、取引先等との信用を維持・確保する必要性から、経営改善計画が策定され、その中に役員報酬の減額が盛り込まれた場合となります。
得意先との関係
こちらは、売上に占める割合が高い得意先が「1回目の不渡りを出した」「業績悪化により規模を縮小せざるを得ない状況だと判明した」など、数カ月後には売上が激減することが客観的に判断できる場合となります。
業績悪化改定事由の具体例
こちらは、裁判で業績悪化改定事由が認められなかった事例です。
概要は、次のとおりです。
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、経常利益が対前年比で6%減少したことを理由として代表取締役に対して支給していた法人税法第34条《役員給与の損金不算入》第1項第1号に規定する定期同額給与を事業年度の中途において減額改定したところ、原処分庁が改定理由が経営状況の著しい悪化等に該当しないから、減額前の各月の支給額のうち減額後の各月の支給額を超える部分の金額は損金の額に算入できないなどとして法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対して、これらの処分の一部の取消しを求めた事案である。
出典:国税不服審判所
請求人は、決算月の2ヶ月前において経常利益が対前年比で6%減少していたことから、代表取締役の給与を減額したことは業績悪化改定事由にあたると主張しました。
しかし、
- 売上高および経常利益の減少は過去の業績と比べてもそん色がない
- 請求人が設定した業務目標が達成できなかったことが減額の理由であった
ことから業績悪化改定事由に該当しないと判断されました。
最後に
役員報酬の変更(増額・減額)は、自由にできるのではなく、限られたケースのみ認められます。
もし、役員報酬を適当に決めたことで、
- 役員報酬が高すぎて、赤字になりそう
- 役員報酬が低くすぎて、法人税が高くなりそう
といった事態に陥り、勝手に変更をしてしまうと、役員報酬が損金算入できず税金の負担が大きくなります。
法人税を安くするには、役員報酬を調整して、利益を0円に近づける必要があります。
ただし、役員報酬が高すぎれば、個人の税率が高くなると同時に社会保険料も上がってしまうデメリットがあります。
だからこそ、役員報酬をいくらにすれば、「法人税と個人の税金・社会保険料の総支払金額が安くなるのか?」「節税対策でどのくらい税金が安くなるか?」をしっかりとシミュレーションする必要があります。
その場合は、税務の専門家である私たちに『役員報酬の手取りを増やす節税方法』と合わせてご相談いただければと思います。
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。