個人事業主やフリーランス、小さな会社のための退職金制度である”小規模企業共済”
小規模企業共済を活用することで、掛金の全額(最大で年間84万円)を所得控除できるだけでなく、掛金以上のお金を受け取ることも可能です。
共済金の受け取り方法は、
- 一括
- 分割
- 一括と分割の併用
の3種類があり、それぞれ税金の取り扱いが変わってきます。
この記事では、小規模企業共済の共済金の受け取り方法の一つである”分割受取”に的を絞って詳しく解説していきます。
目次
小規模企業共済は分割受取が選択できる
小規模企業共済の共済金(解約手当金)を受け取る際は、共済金を複数回に分けて受け取る”分割受取”も選択可能です。
なお、共済金の分割受取ができるのは「共済金A」または「共済金B」となります。
個人事業主 | 法人の役員 | |
---|---|---|
共済金A | ・個人事業を廃止 ・個人事業主の死亡 |
・法人が解散 |
共済金B | ・老齢給付(65歳以上で180ヶ月以上掛金を払い込んだ方) | ・老齢給付(65歳以上で180ヶ月以上掛金を払い込んだ方) ・病気、怪我で役員を退任 ・65歳以上で役員を退任 ・契約者の死亡 |
準共済金 | ・個人事業の法人成りにより加入資格がなくなったので解約をした | ・法人の解散、病気、怪我以外で役員を退任 ・65歳未満で役員を退任 |
その他にも、
- 60歳以上であること
- 共済金の額が300万円以上であること
の条件を満たさなければなりません。
※未返済の貸付金または未納掛金等がある場合、共済金の額からこれらを控除した後の額が300万円以上である必要があります。
受取時期
共済金の受取時期は、年6回(毎年1月、3月、5月、7月、9月、11 月)となります。
受取期間
共済金の受取期間は、10年または15年から選択できます。
1回あたりの受取金額
共済金の1回あたりの受取金額は、共済金の額にに分割支給率を乗じて得た額となります。
受取期間 | 分割支給率 |
---|---|
10年 | 0.0175 + 経済産業大臣の定める率 |
15年 | 0.0120 + 経済産業大臣の定める率 |
※共済金の受取時に定められた分割支給率は、受取期間中は変動しません。
小規模企業共済の分割受取の税金の取り扱い
小規模企業共済の共済金(解約手当金)を分割受取した場合、公的年金等の雑所得扱いとなります。
なお、受け取り方法ごとの税金の取り扱いは、次のとおりです。
受取方法 | 税法上の扱い |
---|---|
共済金または準共済金を一括で受け取る場合 | 退職所得扱い |
共済金を分割で受け取る場合 | 公的年金等の雑所得扱い |
共済金を一括・分割併用で受け取る場合 | (一括分)退職所得扱い (分割分)公的年金等の雑所得扱い |
遺族が共済金を受け取る場合(死亡退職金) | (相続税法上)みなし相続財産 |
65歳以上の方が任意解約をするまたは65歳以上の共同経営者が任意退任をする場合 | 退職所得扱い |
65歳未満の方が任意解約をするまたは65歳未満の共同経営者が任意退任をする場合 | 一時所得扱い |
12か月以上の掛金の未払いによる解約(機構解約)で解約手当金を受け取る場合 | 一時所得扱い |
公的年金等の雑所得扱い
公的年金等の雑所得扱いになった場合、共済金を受け取った年ごとに課税されます。
このとき、
- 国民年金
- 厚生年金
- 企業年金
などの公的年金等を合算した金額に応じて、公的年金等控除額を差し引いて所得金額を計算します。
なお、公的年金等に係る雑所得の金額は、国税庁が公表している速算表を用いて計算できます。
公的年金等に係る雑所得の金額 = (a) × (b) − (c)
年金を受け取る人の年齢 | (a)公的年金等の収入金額の合計額 | (b)割合 | (c)控除額 |
---|---|---|---|
65歳未満 | (公的年金等の収入金額の合計額が700,000円までの場合は所得金額はゼロとなります。) | ||
700,001円から1,299,999円まで | 100% | 700,000円 | |
1,300,000円から4,099,999円まで | 75% | 375,000円 | |
4,100,000円から7,699,999円まで | 85% | 785,000円 | |
7,700,000円以上 | 95% | 1,555,000円 | |
65歳以上 | (公的年金等の収入金額の合計額が1,200,000円までの場合は、所得金額はゼロとなります。) | ||
1,200,001円から3,299,999円まで | 100% | 1,200,000円 | |
3,300,000円から4,099,999円まで | 75% | 375,000円 | |
4,100,000円から7,699,999円まで | 85% | 785,000円 | |
7,700,000円以上 | 95% | 1,555,000円 |
例えば、64歳で国民年金を年60万円、小規模企業共済を年140万円受け取る場合、公的年金等に係る雑所得の金額は次のように計算できます。
公的年金等 = 60万円 + 140万円 = 200万円
速算表の65歳未満「1,300,000円から4,099,999円まで」に該当するので数字を当てはめてみます。
公的年金等に係る雑所得の金額 = 200万円 × 75% − 37万5,000円 = 112万5,000円
小規模企業共済の共済金を繰り上げ受取できるケース
小規模企業共済の共済金(解約手当金)を分割受取にした場合は、原則として途中で分割受取の中断はできません。
ただ、状況によっては途中で繰り上げて残りの共済金を一括で受け取ることも可能です。
条件としては、
- 共済金を受給している者が死亡した → 相続人が受け取る
- 重度障害その他特別の事情が生じた → 本人が受け取る
となります。
なお、共済金を繰り上げて受け取る額は、その時点の価額に割り戻した額となります。
最後に
小規模企業共済の共済金(解約手当金)は、一括受取だけでなく”分割受取”を選択することも可能です。
分割受取にすることで一定額が加算されて一括と比べて受取総額が大きくなるメリットがあります。
ただし、
- 一括受取
- 分割受取
で税金の取り扱いが変わり、その結果、手取り額に大きな差が出ることもあります。
特に小規模企業共済を一括受取にした場合は、退職金として扱われるので勤続年数によっては1,000万円以上の控除を受けることが可能です。
この辺りは、状況によって変わってくるので、どちらがお得になるのかシミュレーションすることをオススメします。
その場合は、税務の専門家である私たちにご相談いただければと思います。
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。