会社を設立して社長になると、給与の代わりに”役員報酬“を受け取ることになります。
役員報酬は、従業員が受け取る”給与”と同じく、税法上は給与所得として扱われます。
そのため、役員報酬から
- 税金(所得税、住民税など)
- 社会保険料
などが毎月の役員報酬から源泉徴収として天引きされます。
仮に経営者自らが生活のために役員報酬50万円(年収600万円)に設定したとしても、実際に手元に残るお金は天引きされる分ぐっと減ることになるわけです。
この記事では、役員報酬を50万円に設定したときの毎月の手取り額、税金(所得税、住民税など)や社会保険料の内訳、さらには手取り額を増やす方法をまとめています。
目次
役員報酬50万円の手取りは約38.5万円
先に結論を言っておくと、役員報酬50万円の毎月の手取りは、
- 独身で約38万5,000円
- 配偶者あり(子供なし)で約39万円
- 配偶者あり(子供2人)で約40万3,000円
となります。
※会社や地域などによって違ってきますので、あくまでも目安として考えてください。
内訳
次が役員報酬50万円(年収600万円)に設定したときの税金(所得税、住民税など)や社会保険料の内訳になります。
独身
年収 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 |
---|---|---|---|
600万円 | 20万8,300円 | 30万9,000円 | 86万4,000円 |
- 年間の手取り額:461万8,700円
- 月間の手取り額:約38万5,000円
配偶者あり(子供なし)
配偶者がいるケースとなります。
年収 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 |
---|---|---|---|
600万円 | 16万9,800円 | 27万6,000円 | 86万4,000円 |
- 年間の手取り額:469万200円
- 月間の手取り額:約39万円
配偶者あり(子供2人)
配偶者と子供が2人(ともに16歳以上)がいるケースとなります。
年収 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 |
---|---|---|---|
600万円 | 9万3,800円 | 20万6,300円 | 86万4,000円 |
- 年間の手取り額:483万5,900円
- 月間の手取り額:約40万3,000円
補足:この年代の子供は大学進学などでお金がかかることが多いため、税制面で優遇されています。
役員報酬の手取り額を増やす方法
自身の役員報酬を50万円に設定したとしても、手元に残るお金は38〜40万円ほどになることが分かりました。
では、役員報酬の手取り額を増やすためには、どのようにすればいいのでしょうか?いくつか例を紹介していきます。
役員報酬とは別に通勤手当を支給する
自宅から会社まで距離があり、
- 公共交通機関(電車、バス、新幹線など)
- マイカー、バイク、自転車
で通勤している場合は、役員であっても通勤手当を支給することが可能です。
例えば、役員報酬50万円から役員報酬48万円(別途通勤手当2万円を支給)に変更したとき総支給額は同じですが、1年間の税金(所得税、住民税)を減らすことができます。
年収 | 通勤手当 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 |
---|---|---|---|---|
600万円 | 0円 | 20万8,300円 | 30万9,000円 | 86万4,000円 |
576万円 | 24万円 | 18万8,700円 | 28万8,900円 | 86万4,000円 |
※独身の場合の税金となります。社会保険料は、通勤手当も含めて計算することになります。
- 年間の手取り額:461万8,700円 → 465万8,400円(通勤手当あり)
- 月間の手取り額:約38万5,000円 → 約38万8,200円(通勤手当あり)
今後、5年間で19万8,700円の手取り額が増える計算です。
配偶者を非常勤役員にする
同族会社(家族経営の会社)では、妻を役員としているケースが多くあり、世帯単位で税金の負担を減らすことができます。
例えば、役員報酬を「夫1人に50万円」から「夫に40万円、妻に10万円」に変更した場合、世帯単位の総支給額は同じですが、1年間の税金(所得税、住民税)は大幅に減らすことができます。
年収 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 | |
---|---|---|---|---|
夫 | 600万円 | 16万9,800円 | 27万6,000円 | 86万4,000円 |
- 年間の手取り額:469万200円
- 月間の手取り額:約39万円
年収 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 | |
---|---|---|---|---|
夫 | 480万円 | 9万4,300円 | 19万4,700円 | 69万1,200円 |
妻 | 120万円 | 8,500円 | 2万4,500円 | 0円 |
- 年間の手取り額:498万6,800円
- 月間の手取り額:約41万6,000円
妻を扶養にすることで社会保険料の負担をゼロにできているのが大きなポイントです。
倒産防止共済(経営セーフティ共済)を活用する
倒産防止共済とは、不測の事態が発生したとき、無担保・保証人なしでお金を借りることができる国の共済制度です。
年間240万円を上限に掛金を全額損金算入することができ、上手く活用することで”法人税”と”個人の税金”の両方で大きな節税効果が得ることができます。
例えば、倒産防止共済の掛金を10万円として、同じ額を役員報酬から減額。将来、退職金として受け取るようにします。※独身の場合の税金となります。
年収 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 |
---|---|---|---|
600万円 | 20万8,300円 | 30万9,000円 | 86万4,000円 |
年収 | 所得税 | 住民税 | 社会保険料 |
---|---|---|---|
480万円 | 12万7,900円 | 23万200円 | 69万1,200円 |
所得を減らしたことで「税金」および「社会保険料」の合計負担額が26万500円も減りました。
これを6年間続けたとすると、
- 税金・社会保険料の削減額合計 → 156万3,000円(= 26万500円 × 6年)
- 倒産防止共済の掛金総額 → 720万円(= 120万円 × 6年)
となります。
この掛金の720万円を役員退職金として支給することにします。
役員退職金の税金は安い
ここで肝となるのが役員退職金の税金の安さです。
役員退職金は、
- 老後生活の原資になる
という側面から役員報酬と比べて、税金が非常に優遇されています。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × 勤続年数 |
20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 – 20年) |
例えば、役員退職金1,500万円、勤続年数30年とすれば、税金はかかってきません。
また、役員退職金には社会保険料がかからないのも大きなメリットです。
普通に役員報酬を受け取るより、少しでも多く役員退職金に回したほうが結果的に税金や社会保険料の負担を減らすことができてお得です。
ただし、会社の規模や勤務実態などに対して、あまりに高額な役員退職金を支給すると「不相当に高額」とみなされて損金算入として認められない可能性があるので注意したいところ。
最後に
自分の会社とは言え「役員報酬」は、サラリーマンと同じく源泉徴収の対象となり、毎月一定の金額が天引きされます。
一度、役員報酬を決めてしまうと、後から自由に変更はできません。
そのため、役員報酬を会社の経営状態以上に支給してしまうと、あまり利益は出ていないのに個人の税金や社会保険料を多く負担しなければならない状況に陥ってしまいます。
少しでも税金などの負担を減らすために当記事でも紹介した「役員報酬の手取りを増やす方法」を活用したいところです。
税金を安くしたいがあまり、虚偽や不正を働くことはいけませんが、弊社では、意味のある節税対策は積極的に行うべきだと考えています。
ホームページでは公開できない節税対策もありますので、税金が高くてお悩みの方はお気軽にご相談ください。
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。