税理士といえば、複雑でややこしい税金についての悩みを解消してくれる頼もしい存在です。
税理士には、
- 税務の代理(確定申告・青色申告の承認申請、税務調査の立ち会いなど)
- 税務書類の作成(確定申告書、法人税申告書、償却資産税申告書の作成など)
- 税務相談(納税額の計算方法、税金の還付請求の方法、節税対策など)
という3つの独占業務があり、これらの「税理士業務」は税理士以外に頼むことはできません。
この他にも税理士は、関連性が高いことから「会計業務」を取り扱っているケースが多くなっています。
今回は、その中でも経理業務の負担を大幅に減らすことができる”記帳代行”について解説していきます。
目次
記帳代行とは
記帳代行とは、日々の取引内容を記帳する「帳簿作成」を代行するサービスを言います。
具体的には、
- 証票書類(レシート、領収書など)を分類・整理する
- 会計ソフトに証票書類の内容を「勘定科目」に分類しながら仕訳・入力する
といった作業を税理士や外部の業者に依頼して代わりにやってもらうことが可能です。
記帳代行を依頼するタイミング
法人や個人事業主が記帳代行を税理士などに依頼するタイミングとしては、次のようなケースが考えられます。
- 本業が忙しくなり自分で記帳する時間的な余裕がなくなった
- 創業・会社設立(法人成り)をしたばかりで経理担当を雇う金銭的な余裕がない
- 経理担当が退職して不在になってしまった
帳簿作成の必要性
法人や個人事業主が費用と時間をかけて帳簿作成する最大の理由は、法律で帳簿作成が義務付けられているからです。
帳簿は、事業の取引やお金の流れを記録した重要なものであり、決算書や確定申告書を作成する際の元データにもなります。
そのため、法人や個人事業主には、帳簿の作成および保存が義務付けられています。
法人は、帳簿(注1)を備え付けてその取引を記録するとともに、その帳簿と取引等に関して作成又は受領した書類(以下「書類」といい、帳簿と併せて「帳簿書類」といいます。)を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間(注2)保存しなければなりません。
出典:国税庁「帳簿書類等の保存期間及び保存方法」
帳簿を作成・保存しない場合の罰則
帳簿の作成・保存義務に違反したとしても直接的な罰則はありません。
しかし、税務調査時に確定申告書の元データである「帳簿」を提示できないことで申告内容の全面的な見直しが求められます。
これにより本来であれば、計上できていた経費が認められず、本税と合わせて罰金である「過少申告加算税」や「延滞税」を加算される可能性があります。
加算税の種類 | 内容 | 加算税率 |
---|---|---|
過少申告加算税 | 本来の税額より少ない金額で申告した場合 (ミスや見解の違いなど) |
0%(税務調査前に修正申告) 10~15% |
無申告加算税 | 申告期限までに申告しなかった場合 | 5%(税務調査前に修正申告) 15%(50万円以下の部分) 20%(50万円を超える部分) |
重加算税 | 本来の税額より少ない金額で申告した場合 (意図的な事実の隠蔽や仮装など) |
35% 40%(無申告) |
延滞税 | 税金を法定納付期限までに納めていなかった場合 (修正申告等により遅れた場合にも発生します) |
最新の税率はこちら |
また、税務署に正しい売上や経費を提示・立証できない場合は、近隣の同規模同業者の差益率などから所得を推計して課税する推計課税が用いられる可能性もあります。
推計課税は、
- 所得が実際より過大に推計される
- 消費税の仕入税額控除を受けられない
などにより本来支払う必要のない数十万円、数百万円の税金が課される可能性があるので注意しなければなりません。
青色申告などが取り消される
その他にも
- 青色申告の適用
- 消費税の仕入税額控除の適用
などは、帳簿の作成・保存が要件となっているため、取り消し処分を受けることになります。
特に青色申告には、最高65万円の青色申告特別控除をはじめとして税金の負担を減らすことができる特典が多いため、取り消しによるデメリットは大きいと言えます。
青色申告特別控除 | 不動産所得または事業所得で事業を営んでいる青色申告者は、最高65万円の控除ができます。※不動産所得は事業的規模(アパートやマンションを10室以上貸しているなど)である必要があります。 |
---|---|
青色事業専従者給与 | 青色申告者と生計を一にしている配偶者や親族(15歳以上)に支払っている給与を必要経費に算入することができます。 |
貸倒引当金 | 事業所得で事業を営んでいる青色申告者は、その事業で生じた貸金(売掛金、貸付金など)の貸倒れによる損失の見込額として、年末における貸金の帳簿価額の合計額の5.5%以下(金融業は3.3%)を必要経費にできます。 |
純損失の繰越しと繰戻し | 事業所得などで赤字になった場合は、その損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越して、各年の所得金額から控除できます。 |
例えば、税務調査の対象期間が過去5年間で毎年65万円の控除を受けていた場合は、325万円(= 65万円 × 5年間)の控除が取り消しとなります。
記帳代行を依頼するメリット
税理士などに記帳代行を依頼するメリットを見ていきましょう。
本業に集中できる
帳簿の作成は、やり方を覚えてしまえば、そこまで難しい作業ではありません。
しかし、取引件数が増えれば、それだけ時間がかかる作業となり、本業にも影響を与えることになります。
そんなときに経理担当を雇うというのも一つの手ではありますが、
- 経理担当を雇ったがミスが多かったりスピードが遅かったり性格が合わない
- 経理担当から従業員に”会社の数字が漏れてしまうリスク“がある
- 経理担当が突然退職したときに”引き継ぎができないリスク“がある
といった懸念点もあります。
記帳代行を活用すれば、採用に時間をかけることなく、面倒な帳簿作成をプロに任せることが可能です。
これにより本業や会社の経営戦略について考える時間を増やすことができ、その分、売上をアップさせることができます。
また、配偶者に経理を頼んでいるのであれば、会社の経営に節約志向の”家計”の考えを持ち込まれ、
「これ、本当に必要なものなの?」
「もっと安く購入できるんじゃないの?」
など、事業の成長に必要な投資も”無駄遣い”として捉えられて言い争いになる可能性もあります。
その結果、仕事の出来事が家庭にも影響をして、心休まるべき自宅でもストレスが溜まることになりかねません。
公私混同を避けて事業に専念するためにも専任の経理担当や記帳代行を依頼することをオススメします。
経理コストを減らすことができる
税理士などに記帳代行を依頼する場合は、仕訳数(領収書や伝票の枚数)などに応じて費用が発生してきます。
ただ、それでも経理担当を月10万円以上で雇うよりは、経費コストを下げられる可能性が高いです。
経理担当の直接的な人件費だけでなく、
- 求人広告費や人事担当の人件費などの”採用コスト“
- 経理担当に対する”教育コスト“
- パソコンや作業スペースなどの”諸経費“
なども無視できません。
また、自社で経理担当を一度雇用すると解雇するのは困難であり、会社の成長期に増やした経理担当を業績悪化に伴って減らすのは難しくなります。
記帳代行であれば、会社の規模(仕訳数)に応じて費用が変動するため、会社の売上に占める経理コストの割合をほぼ一定にすることが可能です。
お金の流れを正確に知ることができる
帳簿の作成は、税務署に正しい決算申告をするためだけでなく、毎月のお金の流れを把握する上でも重要となります。
もちろん、経営者自身で毎月の帳簿付けを確実に行っているなら問題ありません。
しかし、
「忙しいから後回しにする」
「確定申告前に1年分をまとめて行う」
というなら要注意です。
なぜなら、お金の流れが把握できなければ、経営判断の根拠が曖昧になる”どんぶり勘定(どんぶり経営)“になってしまうからです。
このような経営をしていると、いざ、お金を払おうと思ったときに「あれ?まだ10万円残ってたと思うけど、もうないの?何に使ったんだろう?」という状況に陥ってしまいます。
また、売掛金(売上債権)の保有額や回収予定を管理せずに「いつか入金されるだろう。」と何もしないでいると、いつの間にか現金化されていない売掛金が増え、予期せぬ支払いで一気に資金不足に陥る可能性があります。
このような資金不足で怖いのが”黒字倒産”です。
これは会計上は経営状態が良好で黒字が出ているのにも関わらず、会社内の現金が枯渇することで倒産してしまうことを言います。
すぐに銀行融資を受けられない中小零細企業で意外と多く、これを回避するには毎月きっちりと帳簿付けを行って、経営状況をリアルタイムに把握することが重要になります。
お金の流れを知ることにもなり、事業拡大のための人員の増員や設備投資も数字に基づいて無理なく行うことができます。
税理士に記帳代行を依頼するメリット
記帳代行を依頼する場合は
- 税理士
- 記帳代行業者
のいずれかを選択することになります。
ここでは、記帳代行を税理士に依頼するメリットを解説していきます。
帳簿作成から決算申告までをセットで依頼できる
税理士に記帳代行を依頼した場合は、決算申告とセットで依頼することが可能です。
税理士資格のない記帳代行業者は、
- 確定申告書の作成
- 法人税申告書の作成
- 償却資産税申告書の作成
- 源泉所得税納付書の作成
- 法定調書の作成
といった”税理士の独占業務”を行うことができません。
そのため、帳簿作成から決算申告までを依頼したい場合は、他の税理士事務所に任せることになります。
節税のアドバイスを受けられる
税理士の独占業務には、節税対策をはじめとする税務相談も含まれます。
節税対策は、早めに行うほど効果が高く、決算直前に慌てて節税対策をしても100%の効果を発揮することはできません。
税理士に記帳代行を依頼していれば、経営状況をリアルタイムで把握してもらうことができ、最適な時期に節税のアドバイスを提案してもらうことが可能です。
また、大きな設備投資する際、税制優遇の対象になるかどうかを相談することができます。
そのため、記帳代行と合わせて新しい節税方法のアドバイスを受けるのであれば、独占業務により”節税アドバイス”も可能な税理士に依頼する必要があります。
最後に
記帳代行を依頼することで経理コストの削減を図ることが可能です。
それだけでなく、社長自身で行っていた帳簿作成を外部委託することで本業に専念できるようになったり、税務を知り尽くしたプロに任せることでより正確な帳簿付け・確定申告書の作成ができるようになります。
正しい帳簿付けをすることで税務調査への不安を解消でき、経営判断に重要なお金の流れもしっかりと把握することが可能です。
当事務所は、税理士が在籍しているので
- 税務の代理(確定申告・青色申告の承認申請、税務調査の立ち会いなど)
- 税務書類の作成(確定申告書、法人税申告書、償却資産税申告書の作成など)
- 税務相談(納税額の計算方法、税金の還付請求の方法、節税対策など)
など、税理士の独占業務も記帳代行を合わせて一手に引き受けることが可能。
従業員を雇っているときに必要となる年末調整(源泉徴収票の作成)もお任せください。
また、会社の財務状況をタイムリーに知ることができる”月次試算表の作成”や700社への顧問実績に裏付けられた決算で損をしない”節税方法”もご提案いたします。
まずは、記帳代行等を依頼することで「どのくらいの費用対効果があるのか?」をシミュレーションしてみてはいかがでしょうか?
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。