平成30年度税制改正大網を受けて、2020年(令和2年)分の確定申告から青色申告特別控除が65万円から55万円に引き下げられました。
これにより課税対象の所得額から差し引ける控除額が減り、実質的な増税となります。
しかし、今回の税制改正では、
- e-Taxによる申告(電子申告)
- 電子帳簿保存
のいずれかの要件を満たすことで引き続き青色申告特別控除65万円を適用することも可能です。
従来 | e-Taxで申告 | 電子帳簿保存 | |
---|---|---|---|
控除額 | 55万円 | 65万円 | 65万円 |
この記事では、青色申告特別控除65万円の要件の一つである電子帳簿保存について解説していきます。
目次
電子帳簿保存とは
電子帳簿保存とは、近年のペーパレス化に対応するために創設された「電子帳簿保存法」により認められた方法であり、民間事業者の書面の保存に要する負担軽減、保管場所の省スペース化などが軽減が期待されています。
電子帳簿保存法には、
- 電子データ保存(電子的記録)
- スキャナ保存
という2つの保存方法があります。
それぞれ電子帳簿保存として認められる書類が違うので注意しましょう。
国税関係書類 | 電子データ保存 (電子作成・保存) |
スキャナ保存 (紙をスキャンして保存) |
|
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帳簿 | 仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産税台帳、売上帳、仕入帳など | ◯ | - |
書類 | 注文書、請求書、契約書、領収書など | ◯ | ◯ |
棚卸表、貸借対照表、損益計算書など | ◯ | - |
例えば、帳簿、貸借対照表、損益計算書などは、電子計算機処理システム(会計ソフト)などで作成した電子データのみが認められています。
スキャナ保存は認められていないので注意しましょう。
電子データ保存
電子データ保存とは、最初からコンピューターで帳簿や書類を作成・保存する方法を言います。
具体的には、確定申告書を作成する際の元データとなる「帳簿書類」を紙媒体ではなく、
- 電子データ(サーバー、DVD、CDなど)
- マイクロフィルム
で保存をします。
アナログ媒体で保存をするため、100年~500年の長期的な耐久性があり、改ざんが困難なのがメリットです。
スキャナ保存
スキャナ保存とは、紙媒体で作成されたデータをスキャンして保存する方法を言います。
具体的には、取引先などから紙媒体で作成された「注文書」「請求書」「契約書」などを
- スキャナーや複合機
- デジタルカメラ
- スマートフォンのカメラ
で読み取ってから保存をします。
電子帳簿保存の要件
電子帳簿保存は、国が定めた要件に基づいて保存しなければなりません。
「電子データ保存」と「スキャナ保存」で要件が異なってくるので確認していきましょう。
電子データ保存
電子データ保存では「真実性の確保」「可視性の確保」という2つの要件を満たす必要があります。
真実性の確保
真実性の確保とは、保存されたデータが本物であり、改ざんされないことが確認されていることを言います。
要件概要 | 帳簿 | 書類 |
---|---|---|
記録事項の訂正・削除を行った場合の事実内容を確認できること | ◯ | - |
通常業務の業務処理期間を経過した後の入力履歴を確認できること | ◯ | - |
電子化した帳簿の記録事項とその帳簿に関連する他の帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できること | ◯ | - |
システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)を備え付けること | ◯ | ◯ |
出典:国税庁「はじめませんか、帳簿書類の電子化!」
可視性の確保
可視性の確保とは、保存されたデータを誰でも視認できる状態を確保することを言います。
要件概要 | 帳簿 | 書類 |
---|---|---|
保存場所に電子計算機、プログラム、ディスプレイ、プリンタおよびこれらの操作マニュアルを備え付け、記録事項を画面・書面に生前とした形式および明瞭な状態で速やかに出力できること | ◯ | ◯ |
取引年月日、勘定科目、取引金額その他のその帳簿の種類に応じた主要な記録項目により検索できること | ◯ | ◯※ |
日付または金額の範囲指定により検索できること | ◯ | ◯※ |
2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること | ◯ | ◯ |
※取引年月日、その他の日付での検索できること
出典:国税庁「はじめませんか、帳簿書類の電子化!」
スキャナ保存の要件
先ほど同様、電子帳簿保存(スキャナ保存)についても一定のルールに基づいて保存する必要があります。
書類の区分 | 重要書類 | 一般書類 |
---|---|---|
資金や物の流れに直結・連動する書類 | 資金や物の流れに直結・連動する書類 | |
(例)契約書、納品書、請求書、領収書など | (例)見積書、注文書、検収書など |
入力期間の制限 | 【早期入力方式】 国税関係書類に係る記録事項の入力をその受領等後、速やか(おおむね7営業日以内)に行うこと 【業務処理サイクル方式】 国税関係書類に係る記録事項の入力をその業務の処理に係る通常の期間(最長2ヶ月以内)を経過した後、速やか(おおむね7営業日以内)に行うこと ※国税関係書類の受領等から入力まで各事務の処理に関する規定を定めている場合に限る |
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【適時入力方式】適時に入力(注) | ||
一定水準以上の解像度およびカラー画像による読み取り | (1)解像度が200dpi相当以上であること (2)赤色、緑色および青色の階調がそれぞれ256段調以上(24ビットカラー)であること |
|
(2)に関しては、白黒階調(いわゆるグレースケール)での読み取りも認められている(注) | ||
タイムスタンプの付与 | 一般財団法人日本データ通信協会が認定する業務に係るタイムスタンプ(電磁的記録が変更されていないことについて、保存期間を通じて確認することができ、課税期間中の任意の期間を指定し、一括して検証することができるものに限る。)を一の入力単位ごとの電磁的記録の記録事項に付すこと ※国税関係書類の受領者等が読み取る場合は、受領等後、署名の上読み取り、特に速やか(おおむね3営業日以内)にタイムスタンプを付すこと |
|
受領者等が読み取る場合は、読み取る際に、または受領等後、署名の上読み取り、特に速やか(おおむね3営業日以内)にタイムスタンプを付すこと(注) | ||
読取情報の保存 | 読み取った際の解像度、階調および当該国税関係書類の大きさに関する情報を保存すること ※国税関係書類の受領者等が読み取る場合で当該国税関係書類の大きさがA4以下であるときは、大きさに関する情報の保存は不要 |
|
大きさに関する情報の保存は不要(注) | ||
ヴァージョン管理 | 国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について訂正または削除を行った場合には、これらの事実および内容を確認することができる電子計算機処理システムを要すること | |
入力者等情報の確認 | 国税関係書類に係る記録事項の入力を行う者またはその者を直接監督する者に関する情報を確認できるようにしておくこと | |
適正事務 処理要件 |
国税関係書類の受領等から入力までの各事務について、次に掲げる事項に関する規定を定めるとともに、これに基づき当該各事務を処理すること (1)相互に関連する各事務について、それぞれ別の者が行う体制(相互けんせい) (2)当該各事務に係る処理の内容を確認するための定期的な検査を行う体制および手続(定期的な検査) (3)当該各事務に係る処理に不備があると認められた場合において、その報告、原因究明および改善のための方針の検討を行う体制(再発防止) ※小規模事業者の場合で(2)を税務代理人が行うときは(1)の要件は不要 |
|
不要(注意) | ||
帳簿との相互関連性の確保 | 国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項と当該国税関係書類に関係する国税関係帳簿の記録事項との間において、相互にその関係性を確認することができるようにしておくこと | |
見読可能装置の備付け等 | (1)14インチ(映像面の最大径が35cm)以上のカラーディスプレイおよびカラープリンタ並びに操作説明書を備え付けること (2)電磁記録について、次のイ~二の状態で速やかに出力することができるようにすること イ 整然とした形式 ロ 当該国税関係書類と同程度に明瞭 ハ 拡大または縮小して出力することが可能 二 4ポイントの大きさの文字を認識できる |
|
白黒階調(いわゆるグレースケール)による保存の場合、ディスプレイおよびプリンタはカラー対応である必要はない。(注) | ||
電子計算機処理システムの開発関係書類等の備付け | 電子計算機処理システムの概要を記載した書類、そのシステムの開発に際して作成した書類、操作説明書、電子計算機処理および電磁的記録の備付けおよび保存に関する事務手続を明らかにした書類を備え付けること | |
検索機能の確保 | 電磁的記録の記録事項について次の要件による検索ができるようにすること (1)取引年月日その他の日付、取引金額その他主要な記録項目での検索 (2)日付または金額に係る記録項目について範囲を指定しての検索 (3)2以上の任意の記録項目も組み合わせての検索 |
※本要件は、一般書類のスキャナ保存のみ適用されます。また、当該電磁的記録の作成および保存に関する事務の手続きを明らかにした書類(当該事務の責任者が定められているもの。)の備付けを行う必要があります。
出典:国税庁「はじめませんか、書類のスキャナ保存」
電子帳簿保存の承認申請の手続き方法
電子帳簿保存を適用する場合は、管轄の税務署長の事前承認が必要になります。
先ほどの要件を満たした上で承認申請の手続きをしましょう。
必要書類
電子帳簿保存の承認申請には「承認申請書」と「添付書類」が必要になります。
承認申請書類は『国税庁ホームページ 申請書等様式』からダウンロードすることが可能です。
例えば、電子データ保存、マイクロフィルム保存、スキャナによる保存を行いたい場合は、
- 国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等の承認申請
- 国税関係書類の電磁的記録等による保存の承認申請
- 国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請
の3つの承認申請が必要となります。
また、添付書類についても電子計算機処理システムの概要、事務手続きの概要などを示すために提出が求められます。
提出期限
必要書類の提出は、電子帳簿保存を始める3ヶ月前の日までに所轄の税務署に承認申請書を提出する必要があります。
なお、新たに事業を開始する「個人事業主」については、その事業を開始した日から2ヶ月以内に承認申請書を提出することで開業当初から適用が可能です。
最後に
個人事業主は、電子帳簿保存を活用することで青色申告特別控除65万円を引き続き適用可能です。
また、これまで紙媒体で管理していた帳簿書類などを電子データと保存することで社内のペーパレス化に大きく寄与します。
これにより、
- 書類の印刷にかかる用紙代やインク代の削減ができる
- 書類の保管スペースを減らせる
- 書類をコンピューターで簡単に検索できる
- 書類の盗難や紛失を防ぐことができる
といったメリットがあります。
「これまで社内のペーパレス化をしたかったけど、どのような手順で行えばいいか分からなかった。」
そんなときに国が定めた電子帳簿保存の要件に沿って環境を整えてペーパレス化を実現してみてはいかがでしょうか?
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。