消費税

【消費税】インボイス方式で免税事業者からの仕入税額控除が廃止に

2019年10月1日の消費税増税に合わせて導入される”軽減税率”

これに伴って従来とは違った「請求書等保存方式」が求められます。

保存方式 備考
現行 請求書等保存方式
2019年10月1日〜2023年9月30日 区分記載請求書等保存方式 ・消費税増税
・軽減税率導入
2023年10月1日〜 適格請求書等保存方式(インボイス方式)

その中でも注意していただきたいことは、2023年10月1日から始まる「インボイス方式」により免税事業者からの仕入税額控除が段階的に廃止されることです。

免税事業者は、事業者間の取引に影響を及ぼす可能性があるので、しっかりと変更点を把握しましょう。

インボイス方式とは

インボイス方式とは、複数税率に対応した仕入税額控除の要件となる請求書方式です。

従来の請求書と比較して、4つの記載項目を追加しなければなりません。

  1. 請求書発行者の氏名または名称
  2. 取引年月日
  3. 取引の内容
  4. 対価の額(税込)
  5. 請求書受領者の氏名または名称
  6. 軽減税率の対象品目である旨
  7. 税率ごとに合計した対価の額(税込)
  8. 登録番号
  9. 税率ごとの消費税額及び適用税率

赤文字が新しく追加する必要のある項目です。

請求書の例

次がインボイス方式に対応した請求書の例となります。

請求書

○○御中
11月分 21,800円(税込)

日付 品目 税込価格
11/1 食料品 ※ 5,500円
11/8 雑貨 5,400円
11/15 食料品 ※ 5,500円
11/22 雑貨 5,400円

合計21,800円
消費税1,800円
(8%対象10,800円消費税800円)
(10%対象11,000円消費税1,000円)

注)※印は軽減税率(8%)適用商品
△△(株)登録番号T1234…

赤文字が新しく追加する必要のある項目です。

芦屋会計
インボイス方式では、標準税率10%と軽減税率8%を区分して記載する必要があるということですね。

免税事業者は「インボイス方式」の請求書を発行できない

免税事業者は「インボイス方式」の請求書を発行できません。

なぜなら、

  • インボイス方式の請求書を発行するには、登録番号(事業者登録番号)の記載が必須となるから

です。

芦屋会計
この登録番号は、免税事業者には割り当てられません。

そのため、免税事業者は、インボイス方式の請求書の発行は不可となります。

仕入税額控除を適用できない

インボイス方式は、仕入税額控除を適用する要件です。

インボイス方式を発行できないということは、仕入税額控除の適用ができないという意味にもなります。

では、仕入税額控除ができないデメリットは何でしょうか?

例えば、売上高2,100万円(消費税210万円)、仕入高1,200万円(消費税120万円)であった。

このとき仕入税額控除の有無により「どのくらい消費税の納税額が変わるのか?」を計算して比較してみます。

仕入税額控除あり

消費税の納付額 = 売上に係る消費税額 – 仕入に係る消費税額 = 2,100万円 × 10% - 1,200万円 × 10% = 210万円 - 120万円 = 90万円

仕入税額控除なし

消費税の納付額 = 売上に係る消費税額 – 仕入に係る消費税額 = 2,100万円 × 10% - 1,200万円 × % = 210万円 - 0円 = 210万円

芦屋会計
仕入税額控除の有無で”120万円(= 210万円 − 90万円)”も消費税の納税額が変わる結果となりました。

仕入税額控除が適用されない場合、仕入のときに支払った消費税額を差し引くことができないので、消費税の納税額が増えてしまいます。

取引先は消費税の負担が大きくなる

2023年10月1日からスタートする「インボイス方式」により直接的な影響があるのは、免税事業者から仕入れている事業者です。

これまでは、免税事業者から商品等を仕入れた場合であっても仕入税額控除の対象となりました。

今後は、免税事業者の発行する請求書等を受け取っても、仕入税額控除ができなくなります。

芦屋会計
例えば、免税事業者に年間100万円(うち消費税10万円)を支払って仕入をしていたとき、従来であれば、支払った消費税10万円は仕入税額控除の対象となります。

消費税の納付額が500万円だった場合は、仕入税額控除により消費税の負担額が490万円(= 500万円 – 10万円)に負担が軽減されるということです。

しかし、インボイス方式の導入後は、消費税の納付額から差し引けなくなり、消費税の納付額が大きくなります。

免税事業者の仕入税額控除は段階的に廃止される

先ほど免税事業者が発行した請求書等は、仕入税額控除を適用できなくなると伝えました。

しかしながら、いきなり仕入税額控除ができなくなれば、その影響は大きく混乱にも繋がりかねません。

そこで免税事業者の仕入税額控除は段階的に廃止されることになります。

免税事業者の仕入税額控除の特例措置(経過措置)
時期 仕入税額控除の額
2023年9月30日以前 仕入税額控除の額 × 100%
2023年10月1日から2026年9月30日 仕入税額控除の額 × 80%
2026年10月1日から2029年9月30日 仕入税額控除の額 × 50%
2029年10月1日以降 仕入税額控除の額 × 0%

出典:国税庁

芦屋会計
例えば、2027年に免税事業者から仕入のために100万円(うち消費税10万円)を支払った場合、仕入税額控除の額は5万円(= 10万円 × 50%)となります。

免税事業者はどのように対処すべき?

2023年10月1日から始まる「インボイス方式」により免税事業者が発行した請求書等は仕入税額控除ができなくなります。

免税事業者に仕事を発注している企業は、

  • 仕入税額控除ができない分、モノおよびサービスの発注額が実質10%上がる

という状況になります。

これにより免税事業者は、

  • 取引先から値下げ・値引きを要請されたり、買いたたきが発生する
  • 取引自体を打ち切られる、取引から排除される
  • 新規取引先から取引を敬遠される

といった可能性が出てきます。

では、免税事業者は、インボイス方式が始まった後、どのように対処すればいいのでしょうか?見ていきましょう。

免税事業者から課税事業者になる

対処法の1つとして、免税事業者から課税事業者になってインボイス方式の請求書を発行する方法があげられます。

当然のことながら課税事業者になれば、消費税の納税義務が発生するので、消費税の納税や経理負担と取引先との兼ね合いを考えて慎重な判断が必要となります。

なお、課税事業者は、次の条件に1つでも当てはまった場合になる義務が発生します。

  • 2年前の”課税売上高が1000万円超”
  • 1年前の上半期(6ヶ月間)の”課税売上高が1000万円超”かつ”給与等の支払総額が1000万円超”

ただ、上記の条件を満たさなくても任意で課税事業者を選択することも可能です。

場合によっては、課税事業者になることで消費税の還付を受けられる可能性もあるので検討するのも良いでしょう。

税理士が消費税の還付を受ける条件を徹底解説【節税対策】

免税事業者を継続する

業態によっては免税事業者を継続した方が良いケースもあります。

例えば、

  • 一般消費者がメイン顧客である(BtoC)
  • 免税事業者がメイン顧客である(BtoB)

といった場合です。

小売店や飲食店などで顧客の大半が一般消費者の場合は、免税事業者のままで問題ないでしょう。

一般消費者は、自身の生活のために消費を購入します。

事業者として消費税を納税する義務がなく、仕入税額控除のためにインボイス方式の請求書を要求する必要もありません。

同様の理由で、取引先が免税事業者は、そもそも消費税の納税義務がないため、仕入税額控除の有無が関係なくなってきます。

芦屋会計
ただし、業務用の小売店では、課税事業者が仕入れに来ることも多く、インボイス方式の請求書の発行を要求されるかもしれません。

この他、免税事業者から課税事業者になって、消費税の納税などの義務を負うよりも値引きで対処したほうがトータルコストで得になるケースもあります。

最後に

これまで免税事業者は、消費者から受け取った消費税の納税を特例的に免除されており、益税として恩恵を受けてきました。

しかし、2023年10月1日から始まる”適格請求書等保存方式(インボイス方式)”の導入によって取引先との兼ね合いから免税事業者でいることが不利になる可能性があります。

担当者は、

  • インボイス方式の移行でどのくらい影響を受けるか?
  • 取引先との関係性にどのくらい影響があるか?
  • 課税事業者になることでどのくらい負担が増えるか

といったことを考慮して、どうするべきなのか対策を考えましょう。

また、インボイス方式の移行による仕入税額控除の廃止は、2023年10月1日から2029年10月1日の6年間を通して徐々に実施されることになります。

免税事業者を継続するにしても、どのくらい影響があるのかアンテナを張っておき、大きな損失が発生した場合は、課税事業者になって対処していきましょう。

※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。

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