売上が1,000万円を超えて、消費税を支払わなければいけなくなった。
そんなとき、検討していただきたいのが売上高5,000円以下の事業者が利用できる”簡易課税”です。
簡易課税を選択することで消費税の納税額を”数十万円以上”減らせる可能性もあります。
この記事では、知らなければ損する”簡易課税”について解説します。
目次
簡易課税とは
簡易課税とは、消費税の計算方法の一つです。
通常、法人(個人事業主)は、
- 2年前の”課税売上高が1,000万円超”
- 1年前の上半期(6ヶ月間)の”課税売上高が1,000万円超”かつ”給与等の支払総額が1000万円超”
のいずれか1つでも満たすと、消費税を納める義務が発生します。
その場合、消費税の納税額を計算するのに通常は”原則課税”と呼ばれる方法が用いられますが、売上5,000万円以下であれば、”簡易課税”を選択することも可能です。
原則課税と簡易課税では、消費税の計算方法が違ってきます。
そのため、売上が同じでも”消費税の納税額”が大きく変わることがあります。
- 原則課税
- 簡易課税(売上5,000万円以下なら選択可能)
の2種類があるということですね。
どうぜなら、納税額が少ない方を選択したいですね。
原則課税と簡易課税の計算方法を比較
では、消費税の計算方法は
- 原則課税
- 簡易課税
でどのくらい違ってくるのでしょうか?見ていきましょう。
原則課税
原則課税は、売上に伴ってお客さまから「預かった消費税」から仕入れや設備投資などで「支払った消費税」を差し引いて計算する方法です。
消費税の納付額 =「預かった消費税 - 支払った消費税」
例えば、売上高2,200万円(内消費税200万円)、仕入高1,100万円(内消費税100万円)の会社があった場合は、次のように計算できます。
消費税の納付額 = 200万円 - 100万円 = 100万円
簡易課税
簡易課税は「支払った消費税」の計算が不要なのが特徴です。
まず、「預かった消費税」に「みなし仕入率」を掛けて「仕入控除税額」を算出します。
そして、「預かった消費税」から「仕入控除税額」を差し引いて納税額を算出します。
消費税の納付額 = 「預かった消費税 - 預かった消費税 × みなし仕入率」 = 「預かった消費税 - 仕入控除税額」
みなし仕入率は、業種ごとに次のように定められています。
事業区分 | みなし仕入率 | 該当する事業 |
---|---|---|
第一種事業 | 90% | 卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)をいいます。 |
第二種事業 | 80% | 小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第一種事業以外のもの)をいいます。 |
第三種事業 | 70% | 農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業をいい、第一種事業、第二種事業に該当するもの及び加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます。 ※2019年10月1日よりみなし仕入率は80%となります。 |
第四種事業 | 60% | 第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業及び第六種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです。 なお、第三種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第四種事業となります。 |
第五種事業 | 50% | 運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)をいい、第一種事業から第三種事業までの事業に該当する事業を除きます |
第六種事業 | 40% | 不動産業 |
例えば、小売業(みなし仕入率80%)、売上高2,200万円(内消費税200万円)、仕入高1,100万円(内消費税100万円)の会社があった場合、次のように計算できます。
消費税の納付額 = 200万円 - 200万円 × 80% = 200万円 - 160万円 = 40万円
簡易課税では「預かった消費税」と「みなし仕入率」
から消費税の納税額を求めます。
原則課税と簡易課税をシミュレーション
では、売上高が同じとき、原則課税と簡易課税では、どのくらい消費税の負担が増減するのでしょうか?
次の条件でシミュレーションしてみましょう。
- 小売業(みなし仕入率80%)
- 売上高2200万円(内消費税200万円)
- 仕入高は、1100万円(内消費税100万円)、1,430万円(内消費税130万円)、仕入高1,650万円(内消費税150万円)、仕入高2,530万円(内消費税230万円)の4パターン
仕入高1,100万円 (内消費税100万円) |
仕入高1,620万円 (内消費税130万円) |
仕入高1,650万円 (内消費税150万円) |
仕入高2,530万円 (内消費税230万円) |
|
---|---|---|---|---|
原則課税 | 100万円 | 70万円 | 50万円 | -30万円(還付) |
簡易課税 (みなし仕入率80%) |
40万円 | 40万円 | 40万円 | 40万円 |
上記のケースでは、簡易課税を選択することで
- 売上高2,200万円
- 仕入高1,100万円
のとき、”60万円”も納税額が安くなりました。
逆に仕入高が増えていくにつれて、節税効果は薄くなっていき、
- 売上高2,200万円
- 仕入高2,530万円
では、簡易課税の方が70万円も損をしてしまいます。
ただ、先ほどのシミュレーション結果から分かるとおり、いつでも簡易課税が得になるわけではありません。
「節税対策と思って簡易課税を選んだのに、結局税金が高くついてしまった・・・」とならないために、しっかりとシミュレーションを行いましょう。
簡易課税のメリット
簡易課税のメリットは、消費税の計算が簡単になることです。
というのも、この制度自体がもともと「中小企業の事務的負担を軽減することを目的」にできた特例制度だからです。
まず、消費税の計算をするためには、日常の取引を
- 課税取引(商品売買など)
- 非課税取引(土地の売買など)
- 対象外取引(給料の支払いなど)
の3つに分けることから始めなければなりませんが、この作業が結構大変です。
特に「支払った消費税」の判定は、消費税法を理解していない者にとって非常に難しく、集計する手間も時間もかかります。
例えば、同じ会員費でも
- 対価性がある → 課税
- 対価性がない → 非課税
と判定が違うことも多々あります。
簡易課税では、「支払った消費税」の判定が必要なく、その分、記帳・集計の手間などが省けます。
- 原則課税 → 「売上高」と「仕入高」の両方を判定
- 簡易課税 → 「売上高」だけを判定
となります。
簡易課税の方が事務処理が簡易なのが分かりますね。
簡易課税の注意点
簡易課税は、売上5,000万円以下の事業者であれば選択することができますが、いくつか注意点もあります。
あらかじめ届出を提出しなければならない
簡易課税を選択したい場合、適用したい事業年度の前日までに「課税事業者選択届出書」を税務署に提出する必要があります。
(会社設立1期目の場合は、その事業年度の末日まで)
そのため、「今年は、簡易課税の方が消費税が安くなるから、簡易課税を利用したい。」と思っても、その年度から利用することはできません。
「来年は、設備投資が多くなるから、簡易課税の方が得になりそうだな。」と予想して選ぶ必要があります。
2年間は継続しなければならない
一度、簡易課税を選択すると、2年間は「原則課税」に戻れません。
消費税の還付を受けられない
原則課税では、
- 売上高 < 仕入高
となった場合、消費税の還付を受け取ることができます。
しかし、簡易課税では「支払った消費税」ではなく、「みなし仕入率」で消費税の算出をします。
そのため、「売上高 < 仕入高」となることはなく、消費税の還付を受けることはできません。
インボイス制度導入後も簡易課税は利用できる
2023年10月1日からインボイス制度が段階的に導入されています。
では、インボイス制度が始まったことで簡易階税に影響は出ていくるのでしょうか?
答えは、インボイス制度導入後も簡易課税はそのまま利用可能です。
また、取引先に適格請求書(インボイス)を発行する適格請求書発行事業者になったとしても簡易課税には一切影響はありません。
しかし、簡易課税を利用している場合は、この保存義務はありません。
※取引先に適格請求書(インボイス)を発行した場合は、その写しを保存する義務があります。
最後に
消費税の納税額を少しでも減らしたい・・・。
そんなときは「簡易課税」を検討してみましょう。
場合によっては、消費税の納税額が数十万円以上で減るかもしれません。
また、会社の事務負担が軽減されることで、本業に専念することもできます。
ただし、
- 簡易課税 = 節税につながる
とは一概にはいえないため、今後の事業方針も考慮した上でしっかりシミュレーションする必要があります。
「原則課税と簡易課税のどちらを選べばいいのか分からない。」
「消費税の節税についてもっと知りたい。」
という方は、お気軽にご相談ください。
税務に精通した専門スタッフが誠心誠意対応させていただきます。
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。