個人事業主やフリーランス、小さな会社のための退職金制度である”小規模企業共済”
掛金の全額(最大で年間84万円)を所得控除できるだけでなく、掛金以上のお金を受け取ることもできるお得な制度です。
小規模企業共済は「経営者の退職金」としてだけではなく、いざというときの事業資金等の借り入れ先としても使うことができます。
この記事では、小規模企業共済の貸付制度について詳しく解説します。
目次
小規模企業共済の貸付制度とは
小規模企業共済の貸付制度とは、掛金の納付期間に応じた貸付限度額の範囲内で事業資金等を借り入れができる制度です。
メリットとしては、
- 無担保
- 保証人なし
- 迅速
に資金を借り入れできる点があげられます。
そのため、万が一返せないときでも掛金から相殺されるため、会社を畳んだときに債務が残らない点がメリットになります。
借入の限度額と利率
借入の限度額と利率は、貸付タイプごとに異なります。
借入の限度額は、掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)で5万円単位で借り入れ可能です。
貸付タイプ | 借入条件 | 借入の限度額 | 利率 |
---|---|---|---|
一般貸付制度 | 事業資金を迅速に借り入る場合 | 10〜2,000万円 | 年1.5% |
緊急経営安定貸付け | 経済環境の変化等により資金繰りが困難になった場合 | 50〜1,000万円 | 年0.9% |
傷病災害時貸付け(※) | 疾病・負傷による入院や災害等により被害を受けた場合 | ||
福祉対応貸付け | 共済契約者または同居する親族の福祉向上のため | ||
創業転業時・新規事業展開等貸付け | 新規開業・転業する際や事業多角化に必要な場合 | ||
事業承継貸付け | 事業承継(事業用資産または株式等の取得)に必要な場合 | ||
廃業準備貸付け | 個人事業の廃止または会社の解散を円滑に行うため |
※傷病災害時貸付けの借入の限度額については、次の計算を行って得た額が1,000万円を超えるときは、この計算を行って得た額で借入れをすることができます。
(流動負債 – 当座資金)+ 1/2(給与 + 賃金 + その他経費)
一般貸付制度は、特に借り入れの条件が定められておらず、借り入れの限度額も最大2,000万円と高く設定されていますが、他と比べて利率が高いデメリットがあります。
借入期間
借入期間は、貸付タイプや借入金額に応じて変わってきます。
貸付タイプ | 借入期間 |
---|---|
一般貸付制度 | ・100万円以下:6か月、12か月 ・105~300万円:6か月、12か月、24か月 ・305~500万円:6か月、12か月、24か月、36か月 ・505万円以上:6か月、12か月、24か月、36か月、60か月 |
緊急経営安定貸付け | ・500万円以下:36か月 ・505万円以上:60か月 |
傷病災害時貸付け | |
福祉対応貸付け | |
創業転業時・新規事業展開等貸付け | |
事業承継貸付け | |
廃業準備貸付け | ・12ヶ月 |
借入金の返済方法
借入金の返済方法は、貸付タイプや借入期間に応じて変わってきます。
貸付タイプ | 借入期間 |
---|---|
一般貸付制度 | ・借入期間が6か月または12か月の場合:期限一括償還 ・借入期間が24か月、36か月、60か月の場合:6か月ごとの元金均等割賦償還 |
緊急経営安定貸付け | ・6か月ごとの元金均等割賦償還 |
傷病災害時貸付け | |
福祉対応貸付け | |
創業転業時・新規事業展開等貸付け | |
事業承継貸付け | |
廃業準備貸付け | ・期限一括償還 |
期限一括償還
期限一括償還とは、返済の期限日に一括で返済する方法です。
利子は借入時に一括で前払いします。
注意点として、一括で元金の返済が求められるため、元金分の資金を調達しておかなければなりません。
元金均等割賦償還
元金均等割賦償還とは、返済金額のうち、元金だけが均等になるように返済する方法です。
利子は貸付時および償還時に6か月分前払いします。
返済が進み元金が減るにつれて支払う利子も少なくなる特徴があります。
小規模企業共済の貸付制度は借り換えに対応
小規模企業共済の貸付制度を利用して借入をしたが、借入期間内に返済できない事態が生じてしまった。
そんなとき、
- 小規模企業共済の一般貸付制度であれば借り換えを利用することが可能
です。
※新しい借入金の約定利子を支払うこと(一括で前払い)が条件となります。
借り換えとは
借り換えとは、現在の借入金を新しい借入金で返済することを言います。
例えば、小規模企業共済の一般貸付制度では、100万円の借入をした場合、12ヶ月で一括で返済しなければなりません。
しかし、借入金100万円を一括返済すると、
- 運転資金が足りなくなってしまう
などの理由で「もう少し返済を先延ばししたい」というケースも多いでしょう。
そんなときに”借り換え”を利用すれば、新しい借入金の約定利子を支払うことを条件に借入金100万円の返済期間を12ヶ月延長することができます。
小規模企業共済の貸付制度の注意点
小規模企業共済の貸付制度には、いくつかの注意点・デメリットがあります。
1年以上の加入実績が必要
小規模企業共済の貸付制度を利用するには、1年以上の掛金の納付実績が必要です。
中小機構の公式ホームページでも次のように案内されています。
共済契約成立後、貸付資格判定基準日までの掛金納付月数が12か月以上経過していること。
つまり、小規模企業共済に加入したばかりの方は、貸付制度を利用できません。
また、1年以上経過していたとしても支払った掛金の総額が10万円未満の場合は、貸付制度の対象外となるので注意しましょう。
年14.6%の延滞利子
小規模企業共済の貸付制度では、返済が遅れると年14.6%の延滞利子が発生するので注意が必要です。
延滞利子は罰則的な意味合いがあり、
- 通常の借入利率が0.9〜1.5%
と比較して、かなり高く設定されています。
小規模企業共済の貸付制度の手続き方法
小規模企業共済の貸付制度は「一般貸付け」と「その他の貸付制度」で異なってきます。
一般貸付けの手続き方法
一般貸付けの手続きとしては、
- 必要書類の入手と記入をする
- 借入窓口の金融機関で手続きをする
- 借入金のお受取り
の3ステップとなります。
1、必要書類の入手と記入をする
小規模企業共済の一般貸付けを受けるための必要書類は、
- 印鑑登録証明書
- 本人確認書類(運転免許証、健康保険証など)
- 貸付金額に応じた収入印紙
- 共済契約者本人の実印
- 共済契約者番号が掲載されている中小機構からの送付物
となります。
2、借入窓口の金融機関で手続きをする
登録した借入窓口の金融機関で「貸付金借入申込書(様式 小 805または806)」を受け取り、必要事項の記入をして必要書類と一緒に提出をします。
※借入窓口の金融機関を登録していない場合は、商工組合中央金庫(商工中金)の本店または支店で手続きができます。
3、借入金のお受取り
手続き完了後に「貸付金」「貸付金計算書」「金銭消費貸借契約証書(借主控)を受け取ることができます。
なお、借入窓口によって資金交付までの日数が変わってきます。
借入窓口 | 資金交付までの日数 |
---|---|
商工組合中央金庫 | 午後2時までに窓口で手続きをするとその日のうち |
その他の金融機関 | 2~3日程度 |
特別貸付けの手続き方法
その他の貸付制度である
- 緊急経営安定貸付け
- 傷病災害時貸付けのうち「傷病時貸付け」
- 福祉対応貸付け
- 創業転業時・新規事業展開等貸付け
- 事業承継貸付け
- 廃業準備貸付け
を利用する場合は「小規模共済融資課」まで申し込みます。
また、災害時貸付けを利用する場合は「商工中金」まで直接申し込まなければなりません。
最後に
小規模企業共済は、
- 毎月7万円(年間84万円)の掛金を全額損金算入できる
- 高い運用益で掛金以上のお金を受け取ることができる
というメリットがあり、上手く活用することで”法人税”と”個人の税金”の両方で大きな節税効果が得ることが可能です。
また、今回紹介したとおり、掛金の納付期間に応じた貸付限度額の範囲内で事業資金を借り入れることもできます。
通常の融資で必須となる
- 担保
- 保証人
などは必要なく、迅速に資金を借り入れすることが可能です。
中小企業の倒産理由で意外と多いのが”黒字倒産”です。
これは会計上は経営状態が良好で黒字が出ているのにも関わらず、会社内の現金が枯渇することで倒産してしまうことを言います。
資金繰りは会社の生命線です。
小規模企業共済に加入することで”節税対策”と”迅速な資金の借り入れ”の両取りができます。
小規模企業共済の節税効果についてもっと知りたい方はお気軽にご相談ください。
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。