会社を設立して社長になると、給与の代わりに”役員報酬“を受け取ることになります。
では、この役員報酬にかかってくる税金には、どのようなものがあるでしょうか?
実は、役員報酬は、従業員が受け取る”給与”と同じく、税法上は給与所得として扱われます。
そのため、役員報酬では、
- 所得税
- 住民税
の2種類の税金が源泉徴収として天引きされます。
この記事では、役員報酬でかかってくる税金の一つ”住民税”について、詳しく解説していきます。
目次
住民税とは
住民税とは、前年の個人の所得に対してかかる地方税です。
次のように計算できます。
住民税 = 所得割額 + 均等割額 – 税額控除額
所得割額
所得割額とは、納税者の所得に応じて課税される税金です。
所得割額 = 課税所得 × 市町村民税の税率 + 課税所得 × 都道府県民税の税率
均等割額
均等割額は、納税者の所得の多さにかかわらず、一定額を納める税金です。
均等割額 = 市町村民税 + 都道府県民税
課税所得を算出する
住民税の所得割額を算出するには「課税所得」を求めなければなりません。
次のように計算できます。
課税所得 = 給与収入 – 非課税所得 – 所得控除
非課税所得
非課税所得とは、税金がかからない所得です。
通勤手当 (上限15万円) |
自宅から会社までの通勤にかかる費用に対して支給される手当です。公共交通機関(電車、バス、新幹線など)は、経済的かつ合理的な経路で通勤した場合の1ヶ月の定期代が対象となります。 |
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出張手当 | 出張時に旅費や食事代などの必要経費として支給される手当です。その旅行について通常必要と認められるものが対象となります。例:宿泊費1万5,000円、日当5,000円 |
所得控除
所得控除とは、家族構成や個人的事情などを反映するために認められている控除です。
基礎控除 (43万円) |
すべての納税義務者に一律で適用される控除です。 |
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給与所得控除 (上限195万円) |
役員報酬から一定額を経費とみなして差し引ける控除です。 |
社会保険料控除 (上限なし) |
社会保険料(国民年金、国民健康保険、健康保険・厚生年金保険など)を納めたときに適用される控除です。1年に支払った社会保険料の全額を差し引くことができます。 |
扶養控除 (1人あたり最大45万円) |
一定所得以下の扶養家族(子供、親族など)がいる場合に適用される控除です。 |
配偶者控除 (70歳未満は最大33万円) |
一定所得以下の配偶者がいる場合に適用される控除です。 |
医療費控除 (上限200万円) |
一定額以上の医療費等がかかった場合に適用できる控除です。 |
生命保険料控除 (上限7万円) |
保険(生命保険、個人年金、介護保険)の支払いがある場合に適用できる控除です。 |
地震保険料控除 (上限2万5,000円) |
地震保険料の支払いがある場合に適用できる控除です。 |
寄附金控除 (上限なし) |
寄付金(災害の義援金、赤い羽根共同募金、特定の政治献金など)を支払った場合に適用できる控除です。 |
障害者控除 (1人あたり最大75万円) |
納税者本人や扶養親族に障害者がいる場合に適用できる控除です。 |
寡婦(寡夫)控除 (上限26万円) |
夫(妻)と離婚または死別した後に婚姻をしておらず、一定の要件に当てはまった場合に適用できる控除です。 |
雑損控除 (上限なし) |
自身の資産が災害や盗難などに遭ったとき、その損害額について適用される控除です。 |
税額控除額
税額控除額とは、住民税の税額をかけ合わせて算出された税額から直接差し引くことのできる控除です。
住宅ローン控除 (最大50万円) |
住宅ローンを組んで住宅を取得したときに適用できる控除です。 |
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配当控除 (上限なし) |
国内株式や投資信託等の配当金を受け取っているときに適用できる控除です。 |
外国税額控除 | 国外での取引等により外国で納付したときに適用できる控除です。 |
役員報酬の住民税をシミュレーション
では、実際の数値に当てはめて役員報酬の住民税をシミュレーションしてみましょう。
条件は、
- 住まい:大阪府大阪市
- 所得割額:市町村民税の税率6%、都道府県民税の税率4%
- 均等割額:市町村民税の税額3,500円、都道府県民税の税額1,500円
- 役員報酬:600万円
- 通勤手当:10万円
- 社会保険料:86万4,000円
- 配偶者:あり(妻の年収は100万円)
- 子供:1人(6歳)
- 生命保険料:150,000円(平成24年1月1日以後に契約)
- 住宅ローン:2,000万円(返済から9年目)
- 所得税(税額控除前):15万4,100円
とします。
※役員報酬には「通勤手当」が含まれているものとします。
1、課税所得を算出する
まずは、所得税の課税対象となる「課税所得」を算出します。
今回の条件で「非課税所得」および「所得控除」は、
- 通勤手当:10万円
- 基礎控除:43万円
- 給与所得控除:162万円
- 社会保険料控除:86万4,000円
- 配偶者控除:33万円
- 生命保険料控除:2万8,000円
の合計337万2,000円となります。
課税所得は、次のように算出できます。
課税所得 = 給与収入 – 非課税所得 – 所得控除 = 600万円 – 337万2,000円 = 262万8,000円
2、所得割額を算出する
先ほど計算した「課税所得」に大阪府大阪市が設定している「所得割額の税率」を掛けます。
所得割額 = 課税所得 × 市町村民税の税率 + 課税所得 × 都道府県民税の税率 = 262万8,000円 × 6% + 262万8,000円 × 4% = 15万7,680円 + 10万5,120円 = 26万2,800円
3、均等割額を算出する
大阪府大阪市が設定している「市町村民税」と「都道府県民税」の税額を足します。
均等割額 = 市町村民税 + 都道府県民税 = 3,500円 + 1,500円 = 5,000円
4、住民税を算出する
所得割額と均等割額を足して住民税を算出します。
住民税 = 所得割額 + 均等割額 = 26万2,800円 + 5,000円 = 26万7,800円
5、税額控除額を差し引く
最後に先ほど算出した所得税から「税額控除額」を差し引きます。
今回のケースでは、住宅ローン控除が該当します。
住宅ローン控除の計算
住宅ローン控除 = 年末の住宅ローン控除 × 1% = 3,000万円 × 1% = 30万円
所得税から差し引く
まずは、住宅ローン控除を所得税から差し引きます。
所得税 – 税額控除額 = 15万4,100円 – 30万円 = -14万5,900円
まだ、税額控除額14万5,900円が残っているので住民税から差し引くことができます。
住民税から差し引く
ここで住民税26万7,800円から税額控除額14万5,900円を差し引きたいところですが、残念ながら上限額が定められています。
住民税から税額控除できる金額は、前年度課税所得の7%(上限13万6,500円)となります。
前年度課税所得 × 7% = 600万円 × 7% = 42万円
この場合は、上限13万6,500円が税額控除額で差し引ける住民税となります。
住民税 – 税額控除額の残り = 26万7,800円 – 13万6,500円 = -13万1,300円
- 住宅ローン控除なしで”26万7,800円”
- 住宅ローン控除ありで”13万1,300円”
の住民税がかかってくる結果になりました。
※調整控除は考慮していません。お住まいの地域や事業年度によっては、若干の増減があります。
役員報酬の節税対策
会社から支給した役員報酬にかかってくる個人の税金を下げたい場合は、どうすればいいのでしょうか?
代表的な役員報酬の節税対策としては、
- 役員報酬とは別に通勤手当を支給する
- 役員社宅で家賃の50%以上を経費にする
- 配偶者を非常勤役員にする
- 倒産防止共済(経営セーフティ共済)を活用する
といったものがあります。
これからは、税務署からも認められている節税対策となるので、積極的に活用して役員報酬の”手取り額”を増やしていきましょう。
詳しくは、次の記事で解説しています。
役員報酬における住民税の納付方法
役員報酬における住民税の納付方法については、特別徴収が義務付けされています。
特別徴収は、毎月の役員報酬から天引きされる納付方法であり、年12回に分割されることから1回あたりの納税額は少なくなります。
自治体にとっては、未納・滞納を防止できる反面、会社にとっては納税の手間が発生するデメリットがあります。
その他、個人事業主・フリーランスなどにおいては、市区町村から送付される納税通知書で年4回に分割して納める普通徴収が適用されます。
最後に
今回は、役員報酬にかかってくる住民税について詳しく解説しました。
住民税は、所得の多い少ないに関わらず、課税所得の10%ほどがかかってくるのが特徴です。
そのため、住民税の負担を少なくしたいのであれば『役員報酬の手取りを増やす節税方法』などを用いて、課税所得を減らしていく必要があります。
税金の世界では「知らない人が損をして、知っている人が得をする」制度が数多くあり、税務署も積極的には教えてくれません。
お問い合わせいただければ、ホームページでは公開できない節税方法も紹介できます。
「認められた方法かつ最小限の手間で税金を安くするにはどうすればいいの?」など、私たちにお気軽にご相談ください。
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。