事業所得と雑所得の違いって何だろうか?
個人事業主(フリーランス)やサラリーマンで副業をしている場合、収入から経費を差し引いた所得を分類しなければなりません。
その中で特に迷いやすいのが「事業所得」と「雑所得」の判定です。
事業所得には、
- 他の所得と損益通算ができる
- 青色申告特別控除65万円を受けられる
といったメリットがありますが、どのような所得でも事業所得に振り分けられるわけではありません。
この記事では、事業所得と雑所得の違い・判定基準などを解説しています。
目次
税法上の所得は10種類に分類される
まずは、その発生形態などに応じて分類される10種類の所得について見ていきましょう。
事業所得 | 商業、工業、漁業、農業、自由職業などの事業によって生じる所得 |
---|---|
不動産所得 | 土地や建物、船舶や航空機などの貸付けによって生じる所得 |
利子所得 | 公社債や預貯金の利子などの所得 |
配当所得 | 株式の配当、証券投資信託の分配金、法人から受ける剰余金の配当などの所得 |
給与所得 | 給与、賃金、賞与、歳費などの所得 |
譲渡所得 | 土地、建物、借地権、株式、ゴルフ会員権、機会などを譲渡したことによる所得 |
一時所得 | 生命保険の一時金、賞金、懸賞当選金などの一時的に生じた所得 |
山林所得 | 所有期間が5年を超える山林を伐採して譲渡して生じた所得 |
退職所得 | 退職金、一時恩給、老齢給付金などの所得 |
雑所得 | 公的年金(国民年金、厚生年金、企業年金、恩給など)、原稿料、生命保険の年金など、他の9種類に分類できない所得 |
雑所得は、どれにも分類できない所得ですね。
サラリーマンの副業は「雑所得」になる可能性が高い
給与所得者であるサラリーマン等が本業とは別に「副業」をしている場合、雑所得に該当する可能性が高くなります。
なぜなら、国税庁ホームページでは、次のようなケースは雑所得に該当するとされているからです。
給与所得者の副収入としては、様々なものが考えられますが、例えば次のような所得については、一般的には、それぞれ雑所得に該当します。
- インターネットのオークションサイトやフリーマーケットアプリなどを利用した個人取引による所得
(具体例)
・衣服・雑貨・家電などの資産の売却による所得
※生活の用に供している資産(古着や家財など)の売却による所得は非課税(この所得については確定申告が不要)で損失は生じてないものとみなされます。
・自家用車などの資産の貸付けによる所得
・ベビーシッターや家庭教師などの人的役務の提供による所得- ビットコインをはじめとする暗号資産(仮想通貨)の売却等による所得
- 民泊による所得
※個人が空き部屋などを有料で旅行者に宿泊させるいわゆる「民泊」は、一般的に、利用者の安全管理や衛生管理、また、一定程度の観光サービスの提供等を伴うものですので、単なる不動産賃貸とは異なり、その所得は、不動産所得ではなく、雑所得に該当します。- NFTを組成して第三者に譲渡したことによる所得
出典:国税庁「給与所得者がネットオークション等により副収入を得た場合」
事業所得と雑所得の判定基準
サラリーマンの副業では、どのようなときに事業所等として判定されるのでしょうか?見ていきましょう。
基本的には、
- 副業収入が300万円超
- 記帳・帳簿書類の保存をしている
のいずれかに該当していれば事業所得に該当する可能性があります。
これは、2022年10月に国税庁が「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)で次のように案内しているからです。
収入金額 | 記帳・帳簿書類の保存あり | 記帳・帳簿書類の保存なし |
---|---|---|
300万円超 | 概ね事業所得 | 概ね業務にかかわる雑所得 |
300万円以下 | 業務に係る雑所得 ※資産の譲渡は譲渡所得・その他雑所得 |
ただし、
- 所得の収入金額が僅少と認められる場合
- その所得を得る活動に営利性が認められない場合
については、事業と認められるかどうかを個別に判断することとなります。
また、所得が例年赤字かつ赤字を解消する取り組みを実施していない場合は、営利性が認められないと判断される可能性があります。
裁判の判例
事業所得の判定基準は、過去の裁判の判決の実例から読み取ることも可能です。
過去の裁判の判決の実例では、次の項目を総合的に判断するものとされています。
- 営利性・有償性
- 継続性・反復性
- 自己の危険と計算における事業遂行性
- 精神的・肉体的労力の程度
- 人的・物的設備の有無
- 職歴・社会的地位・生活状況
営利性・有償性
事業所得として認められるには、営利活動で収益を上げていなければなりません。
商品やサービスを無償や著しく安い対価で提供している場合は、事業性が否認される可能性があります。
継続性・反復性
事業所得として認められるには、その事業で継続的に利益を得ていなければなりません。
単発による依頼で一時的な所得に過ぎない場合は、事業所得として認められない可能性があります。
例えば、著述家や作家以外の人が受ける原稿料や印税、講演料や放送謝金などは、継続性がないと判断されるため雑所得になります。
自己の危険と計算における事業遂行性
事業所得として認められるには、事業主が責任・リスクを負って事業を遂行していなければなりません。
例えば、アパート・駐車場経営を行っているが利用者は親戚だけだったり、事業の運転資金を親族・友人から無期限・無利子で借りていたりすると事業所得として認められない可能性があります。
サラリーマンでたまたま依頼が入って一時的な収入を得ただけの場合は、まず事業所得としては認められないので注意しましょう。
もし、どちらか判断がつかない場合は、税務署や顧問税理士に相談してみることをおすすめします。
事業所得として認められなかったケース
具体的に事業所得として認められなかったケースを過去の裁判の実例から紹介していきます。
金銭の貸付けによる所得
請求人は、貸金業者として登録しており、人的・物的設備を備えて、チラシの配布による営業活動もしていたことから事業所得に該当すると主張していました。
しかし、判決では、
- 金銭を貸付けている当該法人と請求人は特殊な関係にある
- 貸付金利が低すぎる
- 当該法人は自力で銀行融資できる状態になかった
などの理由から事業所得としては認められませんでした。
外国為替証拠金取引(FX)
外国為替証拠金取引(FX)とは、証拠金として預けた資金にレバレッジ(現行は資金の25倍まで)を効かせて、外国為替取引で売買益を狙うことを言います。
請求人は、外国為替証拠金取引(FX)で1日に費やす時間が平均15時間に及ぶことから事業所得に該当すると主張していました。
しかし、判決では、
- 一般に外国為替証拠金取引(FX)は投機性の高い取引であり、継続的に安定した収益を得られる可能性が乏しい
- 請求人は自らが代表取締役を務める法人からの役員報酬で生計を立てている
などの理由から事業所得としては認められませんでした。
事業所得と雑所得はどっちが得?
先に結論を言っておくと、収益を計上するときは「事業所得」を選択した方が得です。
他の所得と損益通算できる
事業所得の大きなメリットは、他の所得と損益通算できる点です。
損益通算とは、事業所得で赤字が出た場合、他の所得から差し引くことができる仕組みを言います。
例えば、給与所得が500万円、事業所得が100万円の赤字のケースを見ていきましょう。
給与所得 | 給与所得+不動産所得 | |
---|---|---|
給与所得 | 500万円 | 500万円 |
事業所得 | 0円 | −100万円 |
基礎控除 | −48万円 | −48万円 |
社会保険料控除 | −72万円 | −72万円 |
課税所得 | 380万円 | 280万円 |
所得税 | 33万2,000円 | 18万2,000円 |
住民税 | 38万円 | 28万円 |
※社会保険料控除は14.4%で計算、住民税は10%で計算しています。会社や地域によって違ってきますので目安として考えてください。
確定申告で給与所得から事業所得の赤字を差し引くことにより、所得税および住民税を算出する元になる「課税所得」が100万円も減りました。
これにより
- 所得税が15万円
- 住民税が10万円
の合計25万円の節税になります。
青色申告の特典を受けられる
事業所得は、確定申告を「青色申告」で提出することで税制面での優遇を受けることが可能です。
青色申告特別控除 | 不動産所得または事業所得で事業を営んでいる青色申告者は、最高65万円の控除ができます。※不動産所得は事業的規模(アパートやマンションを10室以上貸しているなど)である必要があります。 |
---|---|
青色事業専従者給与 | 青色申告者と生計を一にしている配偶者や親族(15歳以上)に支払っている給与を必要経費に算入することができます。 |
貸倒引当金 | 事業所得で事業を営んでいる青色申告者は、その事業で生じた貸金(売掛金、貸付金など)の貸倒れによる損失の見込額として、年末における貸金の帳簿価額の合計額の5.5%以下(金融業は3.3%)を必要経費にできます。 |
純損失の繰越しと繰戻し | 事業所得などで赤字になった場合は、その損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越して、各年の所得金額から控除できます。 |
特に青色申告特別控除はメリットが大きく、
- 基礎控除:48万円
- 青色申告特別控除:65万円
の合計113万円の控除額が発生することになります。
ただし、青色申告の税制面の特典を受けるには「開業届」および「所得税の青色申告承認申請書」の提出が必要になります。
また、2020年(令和2年)分から適用される税制改正により最大65万円の青色申告特別控除を受けるには「e-Taxによる申告(電子申告)」または「電子帳簿保存」の要件を満たさなければなりません。
雑所得のメリットは?
では、あえて雑所得にするメリットはあるのでしょうか?見ていきましょう。
税務署に開業届を提出して事業を始めた場合、確定申告の提出は必須となります。
一方、雑所得の場合は、年間の所得(収入-経費)が20万円以下であれば、確定申告をする必要がありません。
仮に所得が年間20万円を超えた場合は、確定申告の必要がありますが、青色申告で要求される「貸借対照表」や「損益計算書」などの作成・提出は不要です。
最後に
基本的に事業所得と雑所得では、事業所得のほうがメリットが大きくなります。
ただし、事業所得としては認めてもらうには、
- 副業収入が300万円超
- 記帳・帳簿書類の保存をしている
などの要件を満たす必要があります。
特にサラリーマンの副業については、雑所得として扱われる可能性が高いです。
例えば、サラリーマンが突発的な依頼で講演会や原稿執筆を行ったり、片手間でネットオークションに出品をしてお小遣いを稼いでいる程度では、雑所得とみなされる可能性があります。
事業所得として認められなかった場合は、修正申告をする必要もあるので注意しましょう。
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。