税金の知識

役員貸付金はデメリットが多い!利息、仕訳、消し方など

経営者の皆さん、役員貸付金はありませんか?

役員貸付金とは「会社」が「役員」にお金を貸している状態を言います。

役員目線で言えば、会社からお金を借りている状態であり、本来であれば、将来的に会社に返済する必要があります。

特に中小企業のオーナー経営者は、

  • 役員報酬の代わりに支給する
  • プライベートの大きな買い物のために一時的に借りる
  • 新しく新規事業を立ち上げるために借りる

といった理由で役員貸付金を利用するケースは多いのではないでしょうか?

役員貸付金は、自分の会社からお金を借りることになるため、銀行や消費者金融のように審査や高い利息は必要ありません。

仮に利息を支払ったとしても結局は自分の会社の収益になることから「トータルで損をすることはない」という考え方もできます。

この記事では、役員貸付金で定められる利息、累積するデメリット、返済方法などを解説しています。

役員貸付金とは

冒頭でもお伝えしたとおり、役員貸付金とは、会社が役員に貸したお金のことを言います。

役員貸付金については、法令でも認められており、それほど珍しいものではありません。

ただし、会社から金銭を貸し付けている限りは、原則として通常行われる金銭貸付と同様の手順を踏む必要があります。

具体的には、

  • 株主総会・取締役会の決議・議事録の作成
  • 金銭消費貸借契約書の締結
  • 適正な利息の受け取り

が必要になります。

特に適正な利息の受け取りは重要と言えます。

なぜなら、会社は営利を追求することを目的としていることから、たとえ社長に対して貸し付ける場合でも適正な利息を受け取らなければならないからです。

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役員貸付金を行う場合は、無利子や通常より低い利率で貸し付けてはいけないということですね。

国が定める利息の利率

では、適正な利率とは、どの程度なのでしょうか?

国税庁ホームページには、役員または使用人に貸し付けた金銭の利息について、次のように案内されています。

役員貸付金の適正な利息
会社が他から借り入れて貸し付けた場合 その借入金の利率
その他の場合 0.9%
※令和4年~令和5年中に貸付けを行ったもの

出典:国税庁「金銭を貸し付けたとき」

ただし、役員貸付金が利息なし・無利子または低い利息に設定されていた場合であっても次の(1)~(3)のいずれかに該当していれば、役員貸付金として認められることになっています。

  1. 災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員又は使用人に、その資金に充てるため、合理的と認められる金額や返済期間で金銭を貸し付ける場合
  2. 会社における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め、この利率によって役員又は使用人に対して金銭を貸し付ける場合
  3. (1)及び(2)以外の貸付金の場合で、上記1の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額が1年間で5,000円以下である場合

利息を含めた仕訳

会社から役員に「年利率0.9%」「期間3ヶ月」「金額50万円」で貸し付けた場合の仕訳を解説します。

今回は、利息を差し引いた金額を役員の普通預金口座に振り込むものとします。

役員貸付金の仕訳
借方勘定科目 借方 勘定科目 貸方
役員貸付金 500,000円 普通預金
受取利息
498,875円
1,125円

※受取利息の計算方法は、元本 × 利率 × 借入期間 = 500,000円 × 0.9% × 3ヶ月 ÷ 12ヶ月 = 1,125円となります。

役員貸付金が税務調査で認められないデメリット

会社から役員に貸し付けた役員貸付金が長期間返済の目処もなく残っている場合は、税務調査で役員貸付金として認められない可能性があります。

その場合は、役員賞与として扱われることになり、税負担が増えるデメリットがあります。

役員の税負担が増える

役員貸付金が役員賞与となった場合は、税法上の給与所得として計上されることになります。

そうなってしまえば、社長自身の「所得税」「住民税」「社会保険料」の負担が増えることになります。

特に所得税は、累進課税により税率が最高45%まで上がってしまうため、多額の役員貸付金が役員賞与として扱われることは避けたいところです。

所得税の速算表
課税される所得金額
(課税所得)
税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 9万7,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 42万7,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 63万6,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 153万6,000円
1,800万円を超え4,000万円以下 40% 279万6,000円
4,000万円超 45% 479万6,000円

参考:国税庁ホームページ

会社の税負担が増える

その他、役員貸付金が役員賞与に認定された場合は、法人の損金算入にできない問題もあります。

通常、法人が役員報酬を支給する場合は、事前の手続きが重要になります。

具体的には、

  1. 株主総会を開催
  2. 税務署に届出書を提出
  3. 届出書に基づいて役員賞与を支給

です。

役員賞与(ボーナス)を支給したい!株主総会と届出で損金算入できます

しかしながら、税務調査により役員貸付金が否認されて「役員賞与」として扱われた場合は、所定の手続きが行われていないことから役員賞与を損金算入にはできません。

もし、100万円の役員賞与が損金算入として認められなかった場合は、次のように法人税等の負担が大きくなってしまいます。

役員賞与を全額損金算入した場合 役員賞与を損金算入しない場合
売上 2,000万円 2,000万円
仕入れ −1,000万円 −1,000万円
役員報酬 −600万円 −600万円
役員賞与 −100万円 0円
利益 300万円 400万円
法人税等 75万円 100万円

※法人税等を分かりやすく25%として計算した場合です。実際は、会社の規模などにより、大きく異なる可能性があります。

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本来であれば、所定の手続きにより損金算入できていました。

しかし、税務調査で役員貸付金が否認された結果、役員賞与が損金算入できずに法人税等が25万円も増える結果となりました。

不納付加算税を課せられる可能性もある

通常、会社が役員報酬を支払う場合は、源泉所得税を徴収しなければなりません。

しかし、役員貸付金が否認されて「役員賞与」となった場合は、源泉徴収を行っていなかったことから不納付加算税というペナルティが課せられることになります。

不納付加算税の課税割合については、次のとおりです。

不納付加算税の課税割合
税務調査の指摘により納付する場合 10%
自主的に納付する場合 5%

※正当な理由が認められた場合に限り、不納付加算税は不適用となります。

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例えば、源泉所得税10万円に対して不納付加算税が課せられた場合は、1万円(=10万円 × 10%)を余分に支払うことになります。

役員貸付金が累積していくデメリット

役員貸付金は、税務調査で指摘のリスクがあるだけでなく、様々なデメリットが発生します。

金融機関からの評価が下がる

最大のデメリットは、金融機関からの評価が下がる点です。

これにより金融機関から新規事業や運転資金などの融資を受けにくい状態になる恐れがあります。

なぜなら、金融機関の審査基準は、

  • 返済能力(期日までに返済してくれるか)
  • 資金使途(借りたお金の使い道は適切であるか)

の2つを重視しているからです。

もし、多額の役員貸付金がある場合、金融機関は「この会社に融資をしても役員のプライベートな資金として使われるのではないか?」という疑念を持たれることになります。

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今後、金融機関から融資を受けるのであれば、役員貸付金を減らすか消すようにしていくべきですね。

受取利息により法人税の負担が増える

先ほど解説したとおり、会社から役員にお金を貸す場合は、原則、適正な利息を設定しなければなりません。

会社目線で言えば、利息は利益として計上されることになり、その分だけ法人税等の負担が大きくなります。

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会社から役員に貸し付けを行った場合であっても税法上は第三者への貸付と同様の処理がなされることになります。

相続人に引き継がれる

役員貸付金とは、役員にとっては会社からの借金として扱われます。

そのため、万が一、役員が役員貸付金を残して死亡した場合は、相続人に引き継がれることになります。

ここで問題となってくるのが、役員貸付金が返済のないことから「役員賞与」として扱われたことで個人の所得に確定申告の義務が発生。

その確定申告の期限を過ぎたことから加算税(無申告加算税)などが課せられている状態です。

通常、被相続人の遺産は、債務(借金)を控除することができますが、罰則的な意味を持つ加算税については、例外的に控除対象とはなりません。

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遺族に余計な負担を掛けないためにも税務署から指摘されそうな役員貸付金については精算しておくことをおすすめします。

役員貸付金の返済方法・消し方を解説

ここまで役員貸付金には、様々なデメリットがあることを解説しました。

では、役員貸付金を解消する場合は、どのような方法があるのでしょうか?解消スキームを見ていきましょう。

役員報酬から返済する

最も一般的な役員貸付金の返済方法は、役員報酬から返済に充てていく方法です。

例えば、毎月の役員報酬が80万円の場合は、そのうち20万円を役員貸付金の返済分として天引きをしていくことになります。

もし、現在の役員報酬の水準では、役員貸付金を返済する余裕がないのであれば、定期同額給与のルールに従って増額をする必要があります。

役員報酬で知っておきたい「定期同額給与」の考え方を徹底解説

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ただし、役員報酬を増額すれば、税金(所得税、住民税)や社会保険料の負担も大きくなってしまうので注意が必要です。

役員退職金から返済する

続いて、役員退職金から役員貸付金を返済する方法です。

役員退職金は、老後生活の原資になるという側面から非常に税金が優遇されている所得となります。

大きく分けて

  1. 退職所得控除を差し引ける
  2. 退職所得を2分の1にできる
  3. 分離課税にできる

の3つの優遇を受けることができます。

そのため、役員報酬で返済するときに問題となった税金や社会保険料の負担増加を抑えることが可能です。

役員退職金は節税対策に効果的!功績倍率や分掌変更も解説

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ただし、役員退職金の税制優遇を受けるには、実質的に経営上主要な地位から退かなければなりません。

退職の時期がずっと先である場合は、先ほど解説した役員貸付金が累積したデメリットが付きまとってくることになります。

役員の個人資産で返済をする

こちらは、役員の個人資産を売却して役員貸付金の返済に当てる方法です。

金融資産(株式、債券、投資信託、生命保険など)や不動産(土地、建物など)の資産があるなら有効な手段であると言えます。

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ただし、会社に売却した際は、その利益が役員の所得として課税対象となります。

また、不動産売却に伴って役員から会社に不動産の名義変更した場合は、登録免許税や不動産取得税等の費用が発生するので注意しましょう。

役員借入金と相殺する

役員借入金が残っている場合は、役員貸付と相殺可能です。

例えば、過去に役員が会社に600万円を貸していた。

そして、今回、役員貸付金として300万円を借り入れた場合は、役員借入金600万円から役員貸付金300万円を相殺可能。

その結果、役員借入金が300万円残ります。

会社が債権放棄をする

役員貸付金の返済ができない場合は、会社側で債権放棄をする方法があります。

しかし、本来返済してもらうはずの貸付金を放棄する場合は、役員に経済的利益を与えたとみなされます。

そのため、債権放棄した金額が役員賞与として扱われ、役員の税金や社会保険料などが増加する結果になります。

役員貸付金に関するよくある質問(Q&A)

ここからは、役員貸付金に関するよくある質問をまとめていきます。

Q、役員貸付金の利息に消費税はかかりますか?

消費税はかかりません。

役員貸付金を含めて預金や貸付金の利息は、消費税がかからない非課税扱いとなります。

消費税の「非課税取引」とは?具体例と間違いやすい取引を徹底解説

Q、会社が破産・廃業・清算された場合、役員貸付金はどうなりますか?

通常、会社の破産・廃業後の処理を担当している破産管財人から返済を求められます。

最後に

今回は、会社が役員に金銭を貸し付ける”役員貸付金”について解説しました。

役員貸付金は、法令でも認められた仕組みとなりますが、会社と個人のお金をごちゃまぜにするこ公私混同は許されていません。

そのため、役員に金銭を貸し付ける場合は、

  • 株主総会・取締役会の決議・議事録の作成
  • 金銭消費貸借契約書の締結
  • 適正な利息の受け取り

が必要です。

もし、会社と役員で金銭消費貸借契約書を締結していなかった場合は、税務調査で役員賞与とみなされる可能性があるので注意しましょう。

現在、役員貸付金が累積しているのであれば、税理士に相談してみることをおすすめします。

万が一、税務調査が入った場合であっても、税理士の立ち会いにより役員貸付金も含めて有利な交渉が可能です。

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※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。

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