近年、日本ではフリーランスという働き方が増えています。
これは、IT技術の発達により個人がクラウドソーシングサービスなどを利用してインターネット上で簡単に仕事が探せるようになったことが大きな要因です。
また、従来の終身雇用制度を前提とした働き方から”会社に依存しない生き方”を選択する人が増えたことも大きな理由と言えるでしょう。
しかし、フリーランスになると問題となってくるのが確定申告の存在です。
会社員時代は、給与から税金が天引き(源泉徴収)され、年末に納税額の過不足を調整する「年末調整」を行ってくれるので、確定申告の必要はありませんでした。
フリーランスになると自身で税金を納付するための申告が必要になってきます。
この記事では、フリーランスで活躍している方が税理士に依頼・相談すべきタイミングなどを解説していきます。
目次
確定申告とは
まずは、フリーランスになると毎年必要になる確定申告について簡単におさらいします。
確定申告とは、国に税金を納めるために自身で所得金額を計算して税務署に申告する制度です。
具体的には、
- 毎年1月1日から12月31日の期間に発生した所得や経費から所得税を計算して税務署に提出する一連の流れ
を言います。
確定申告が必要なフリーランス
フリーランスは、所得が48万円以上を超えると確定申告が必要となります。
これは「確定申告をする必要のある人の要件」として、次のように明記されているからです。
その年分の所得金額の合計額が所得控除の合計額を超える場合
出典:国税庁
所得控除とは、一定の要件にあてはまった場合に所得金額の合計額から差し引ける控除です。
基礎控除、給与所得控除、社会保険料控除、扶養控除、配偶者控除、医療費控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除などが該当します。
この中でも基礎控除は、すべての納税義務者が一律で48万円を差し引くことが可能です。
そのため、所得金額の合計額が48万円以下であれば、課税所得は0円となり、確定申告はしなくても良いとされています。
確定申告が必要な人は、次の記事で詳しく解説しています。
フリーランスは確定申告で最高113万円の控除を受けられる
フリーランスは、確定申告で「青色申告」を選択することにより最大65万円の青色申告特別控除を受けることが可能です。
これにより
- 基礎控除:48万円
- 青色申告特別控除:65万円
の合計113万円の控除額が発生することになります。
※2020年(令和2年)分の確定申告から青色申告特別控除65万円を受けるには「e-Taxによる申告(電子申告)」または「電子帳簿保存」が必須となりました。
また、青色申告をすれば、次の特典も付いてきます。
青色申告特別控除 | 不動産所得または事業所得で事業を営んでいる青色申告者は、最高65万円の控除ができます。※不動産所得は事業的規模(アパートやマンションを10室以上貸しているなど)である必要があります。 |
---|---|
青色事業専従者給与 | 青色申告者と生計を一にしている配偶者や親族(15歳以上)に支払っている給与を必要経費に算入することができます。 |
貸倒引当金 | 事業所得で事業を営んでいる青色申告者は、その事業で生じた貸金(売掛金、貸付金など)の貸倒れによる損失の見込額として、年末における貸金の帳簿価額の合計額の5.5%以下(金融業は3.3%)を必要経費にできます。 |
純損失の繰越しと繰戻し | 事業所得などで赤字になった場合は、その損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越して、各年の所得金額から控除できます。 |
青色申告と白色申告の違い
フリーランスの確定申告には、大きく分けて「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。
白色申告 | 青色申告 (10万円控除) |
青色申告 (65万円控除) |
|
---|---|---|---|
特別控除 | なし | 10万円 | 65万円 |
届出 | 不要 | 必要 | 必要 |
記帳 | 単式簿記 | 単式簿記 | 複式簿記 |
以前は、
- 青色申告=難しい
- 白色申告=簡単
というイメージがあり「青色申告は難しそうだから、白色申告にしておこう」という人も少なくありませんでした。
これは、青色申告では、専門性の高い「複式簿記」で帳簿付けをする必要があり、ある程度の簿記の知識が必要だったからです。
しかし、最近は、初心者でも簡単に複式簿記で確定申告ができる会計ソフトが登場。
事業用の銀行口座やクレジットカードと同期をして取引内容が自動的に記帳されるようにもなっています。
また、平成25年(2013年)からは、白色申告でも所得金額の大小に関係なく帳簿付けの義務が発生しているため、両者の差がほとんどなくなりました。
そのため、基本的には、フリーランスで確定申告をするのであれば、最大65万円の青色申告特別控除を受けられる「青色申告(複式簿記)」をおすすめします。
フリーランスは税理士に依頼・相談すべき?
フリーランスで収入がそれほど多くないのであれば、ご自身で会計ソフトを活用して確定申告書を作成するのも一つの手です。
有名な会計ソフトとしては「弥生会計シリーズ」「freee(フリー)」「マネーフォワードクラウド会計」などがあります。
一方、フリーランスで税理士に依頼・相談するタイミングは、次のようになります。
- 確定申告や記帳を代行して本業に集中したい
- 所得が増えてきたので節税対策をしたい
- 事業が拡大して法人成り(法人化)をする
1、確定申告や記帳を代行して本業に集中したい
会計ソフトで確定申告書を作成する上で苦労することが帳簿の作成です。
帳簿とは、事業の取引やお金の流れを記録した重要なものであり、確定申告書を作成する際の元データにもなります。
法律でも帳簿の作成および保存が義務付けられているため、必ず作成しなければならないものです。
法人は、帳簿(注1)を備え付けてその取引を記録するとともに、その帳簿と取引等に関して作成又は受領した書類(以下「書類」といい、帳簿と併せて「帳簿書類」といいます。)を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間(注2)保存しなければなりません。
出典:国税庁「帳簿書類等の保存期間及び保存方法」
ただ、帳簿の作成自体は、会計ソフトでやり方を覚えてしまえば、そこまで難しい作業ではありません。
しかし、取引件数が増えれば、単純作業ながらそれだけ時間がかかる作業となり、本業にも影響を与えることになります。
会計ソフトで銀行口座やクレジットカードを同期させることができれば、ある程度手間を省くことができますが、現金のやり取りが多い場合は、請求書や領収書を確認しながら手作業で入力しなければなりません。
「本業が忙しい中、帳簿作成をする余裕がない。」
そんなとき、税理士に確定申告や記帳代行を依頼すれば、本業や事業戦略について考える時間を増やすことができ、その分、売上をアップを図ることができます。
2、所得が増えてきたので節税対策をしたい
日本では所得が高ければ高いほど税率も上がっていく累進課税を採用しています。
次は、国税庁ホームページが公表している所得税の税率です。
課税される所得金額 (課税所得) |
税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
フリーランスで所得が少ないうちは問題ありませんが、課税所得が増えると重い税負担になることが分かります。
所得税 = 課税所得 × 税率 – 税額控除額 = 1000万円 × 33% – 153万6,000円 = 176万4,000円
さらに上記の所得税に加えて、住民税が約10%かかってきます。
このように税金の負担が増えてきたときに頼りになるのが税理士です。
一応、税金のことに関しては税務署に無料相談&匿名で電話相談することもできますが、一般的な手続きの方法しか教えてくれません。
例え、大幅に節税できる余地があっても税務署から「こうすれば、もっと税金を抑えることができますよ。」教えてくれることはないのです。
そのため、具体的な節税方法を聞きたいのであれば、税理士に相談することが一番となります。
節税のアドバイスを受けられるだけでなく、これまで経費にしていなかった部分を経費とすることで毎年の節税効果を期待できます。
また、税務のプロによるチェックが入ることでより正確な申告が可能。
万が一、税務調査が入ったときには、税務調査官から指摘が入ったとしても税金の負担が減るように交渉してくれます。
また、税制は毎年のように変わるため、今年通用する節税方法ではないかもしれません。
節税方法を調べるのに時間を費やすのであれば、税理士に相談して安全確実に節税対策をした方が本業にも集中することができるでしょう。
3、事業が拡大して法人成り(法人化)をする
フリーランスで事業が拡大した場合、法人成り(法人化)をしたほうが支払うべき税金が少なくなる可能性があります。
なぜなら、
- 給与所得控除の恩恵を受けられる
- 家族に役員報酬を支払うことができる(関連:妻を社会保険の扶養範囲にするなら「非常勤役員」「年収130万円未満」にするべし)
- 赤字の繰り越しが3年間から9年間になる
などのメリットがあるからです。
また、所得税は、所得に応じて”5~45%”の税率が適用されるのに対して、法人税は所得に応じて”15%または23.2%”と最高税率が低く抑えられています。
この税率の差を上手く活用すれば、毎年一律で徴収される法人住民税の「均等割」を考慮してもトータルで税金が安くなる可能性があります。
ただし、いざ、フリーランスが法人成り(法人化)するときに問題が出てくるのが、法人の申告書の複雑さです。
個人の確定申告と比べて法人の申告の難易度は一気に跳ね上がり、今までに聞いたことのない専門用語も多数登場します。
そんなときに頼りになるのが税理士です。
法人になって複雑になる税制面のサポートだけでなく、法人になることで厳しくなる税務署に目をつけられないように細心の注意を払って申告手続きを代行してくれます。
また、会社設立を税理士に相談すれば、損をしない資本金の決め方などのアドバイスを受けることが可能です。
最後に
フリーランスは顧問税理士をつけるべきでしょうか?
基本的には、自身で帳簿や確定申告の作成に時間や手間を費やすより税理士に報酬を払って丸投げしたほうが得であれば、顧問税理士をつけるべきです。
また、年間売上高が1000万円を超えてきた場合は、節税対策により税金の負担を大幅に減らせる余地が出てくるので、一度相談をしてみるのもありでしょう。
何と言っても顧問税理士をつけることで
- 税金や融資相談、会社設立などについて相談できる
- 正しい申告ができる
- 税務調査が入っても税理士に立ち会いを依頼できる
といった安心感があります。
本業以外のことに神経をすり減らす必要がなく、自分の得意な分野に時間をかけれるのは何よりのメリットと言えるのではないでしょうか?
現在、税務処理で本業が圧迫されていたり、税金のことで不安を抱えているなら一度税理士に相談することをおすすめします。
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。