ある朝のこと。
玄関のチャイムが鳴り、扉を開けると税務調査官が立っている。
そして、「本日は、◯◯会社の法人税について調査にお伺いさせていただきましたので、ご協力お願いします。」と一言。
こんな時、あなたならどうしますか?
通常、税務調査は、2週間前ぐらいに事前連絡が入り、日程調整をした上で実施されますが、突然、税務調査官がアポなしで訪問してくることもあります。
この記事では、税務調査がアポなし(無予告調査)で入った時の正しい対処法を解説しています。
目次
税務調査がアポなし(無予告調査)で入った時の正しい対処法
まずは、
- 税務調査官を中に入れない
- 顧問税理士に連絡をする
の2つの行動をとりましょう。
1、税務調査官を中に入れない
通常、来客があれば事務所の中に通すものですが、税務調査の場合は話が別です。
なぜなら、
税務調査官を事務所の中に通した時点で税務調査に協力する意思がある
と見なされてしまうからです。
だから、アポなしの税務調査を断る場合は、税務調査官を事務所や店舗の中に入れてはいけません。
必ず自分が外に出て身分確認や用件を聞き出し、税務調査であれば「顧問税理士と連絡を取るので待ってください。」と伝えましょう。
このとき税務調査官は雑談から生活状況の調査をしていることもあるので、余計なことは必要以上に話しすぎないように注意が必要です。
特に
- 現金取引による売上が多い(バー、クラブ、風俗業など)
などの業種は、税務調査に入られやすいため、従業員にも支持を出しておく方が良いでしょう。
2、顧問税理士に連絡をする
アポなしの税務調査を断る大きな理由は、税理士の立ち会いがないからです。
なぜなら、税務調査での受け答え一つで税金の負担が大きく変わってくることがあるからです。
最悪の場合、
可能性もあります。
だからこそ、まずは、税務の専門家である税理士に連絡を取ることが重要になります。
もし、今日は、税務調査が厳しいのに、なかなか税務調査官が帰ってくれないなら、税理士に電話で話してもらうのも良いでしょう。
アポなしの税務調査って断ってもいいの?
ここまで読んで気になることが「そもそも”アポなしの税務調査”は断っても良いのか?」ということです。
ここからは、関連する法律と照らし合わせて、その辺りのことを解説していきたいと思います。
税務調査は拒否できない
まず、大前提として納税者は税務調査を拒否することはできません。
この根拠となるのが「国税通則法第74条の2」であり、条文を読むと「必要があるとき」は、事業に関する帳簿書類の検査や提示、提出を求めることができると明記されています。
国税庁、国税局若しくは税務署又は税関の当該職員は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、次の各号に掲げる調査の区分に応じ、当該各号に定める者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又は当該物件の提示若しくは提出を求めることができる。
出典:国税通則法第74条の2(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)
さらに税務調査の拒否などには、罰則規定が設けられています。
具体的には、
- 税務調査に協力しない
- 偽りの答弁をする
- 正当な理由もなく拒否をする
といった場合には、国税通則法127条の受忍義務(調査に応じる義務)違反として、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性があると明記されています。
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第二十三条第三項(更正の請求)に規定する更正請求書に偽りの記載をして税務署長に提出した者
二 第七十四条の二、第七十四条の三(第二項を除く。)、第七十四条の四(第三項を除く。)、第七十四条の五(第一号ニ、第二号ニ、第三号ニ及び第四号ニを除く。)若しくは第七十四条の六(当該職員の質問検査権)の規定による当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは偽りの答弁をし、又はこれらの規定による検査、採取、移動の禁止若しくは封かんの実施を拒み、妨げ、若しくは忌避した者
三 第七十四条の二から第七十四条の六までの規定による物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出した者
出典:国税通則法 第127条
最悪の場合は、罰金または懲役刑が科される可能性があるということですね。
アポなしの税務調査は認められている
では、アポなしの税務調査は、法令でどのように取り扱われているのでしょうか?確認していきましょう。
原則として、税務調査をするには、あらかじめ事前通知が必要とされています。(国税通則法 第74条の9)
実地の調査を行う場合には、原則として、調査の対象となる納税者の方に対して、調査開始前に相当の時間的余裕を置いて、電話等により、実地の調査を行う旨、調査を開始する日時・場所や調査の対象となる税目・課税期間、調査の目的などを通知します。
出典:国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
しかし、税務署が事前通知をすることで「正確な税務調査に支障を及ぼす」と判断した場合は、事前通知をしなくてもよいとされています。(国税通則法第74条の10)
法令の規定に従い、申告内容、過去の調査結果、事業内容などから、事前通知をすると、
- 違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ、又は
- その他、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある
と判断した場合には、事前通知をしないこともあります。
出典:国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
一般的な税務調査に強制力はない
先ほど、アポなしの税務調査は認められていると解説しました。
しかし、税務調査には、
- 強制調査
- 任意調査
の2種類があり、この内、一般的に実施される「任意調査」には強制力がありません。
もう少し詳しく説明してみましょう。
強制調査
強制調査とは、国税局査察部(マルサ)が
- 脱税額1億円超
- 悪質な仮装隠蔽工作
に当てはまる納税者に対して実行する裁判所の令状を得た強制捜査です。
関係書類を押収できる強い権限が与えられており、この場合は税務調査を拒否することができません。
しかしながら、強制調査は、巨額の脱税を対象としており、割合としては全体の1%に満たない数です。
そのため、一般の納税者にとっては、ほとんど関係がないと言えます。
任意調査
任意調査とは、税務調査の99%で実施されている強制力のない調査です。
税務調査官が「裁判所の礼状」を持たずに訪問をしてきた場合は、こちらの”任意調査”となります。
あくまでも”任意調査”のため、税務調査官は、納税者の”承諾”なく勝手に関係資料などを調べることはできません。
税務調査官が勝手に資料を調べ始めたとき、抗議をしなければ”承諾”したと見なされる可能性があります。
ただし、税務調査自体を拒否してしまうと、先ほどお伝えしたとおり、罰金や懲役刑が科せられる可能性があるので「税務調査に協力したいけど、今日は都合が悪い」といった断り方にしましょう。
税務調査の日程変更はできる
税務調査を断ることはできませんが、「合理的な理由」があれば調査日の日程変更ができます。
その根拠となるのが、国税庁が発表している次の法令解釈通達です。
(事前通知した日時等の変更に係る合理的な理由)
法第74条の9第2項の規定の適用に当たり、調査を開始する日時又は調査を行う場所の変更を求める理由が合理的であるか否かは、個々の事案における事実関係に即して、当該納税義務者の私的利益と実地の調査の適正かつ円滑な実施の必要性という行政目的とを比較衡量の上判断するが、例えば、納税義務者等(税務代理人を含む。以下、4-6において同じ。)の病気・怪我等による一時的な入院や親族の葬儀等の一身上のやむを得ない事情、納税義務者等の業務上やむを得ない事情がある場合は、合理的な理由があるものとして取り扱うことに留意する。
出典:国税庁
合理的な理由には、病気や怪我、葬儀などの他、業務上やむを得ない事情も含まれています。
しかし、仕事で大事な商談や用事があれば、業務上やむを得ない事情があるとして、日程変更を要求できるということです。
最後に
突然、アポなしの税務調査が入ったときにすべきことは、
- 税務調査官を中に入れない
- 顧問税理士に連絡をする
の2つです。
覚えておいてほしいのは、アポなしの税務調査は、正当な理由があれば日程変更が可能ということ。
そして、日程変更をする最大の理由は、税理士が立ち会わないことで、「不利な状況に追い込まれる」のを防ぐためです。
税務調査官は、税金の専門家であり、「できるだけ税金を多く納めてもらうこと」を考えています。
だから、顧問税理士と連絡が取れるまでは、税務調査に協力する意思を示しつつも、対応はしないようにしましょう。
必ず「顧問税理士に連絡をするから、少し待ってください。」と伝えてください。
あらかじめ顧問税理士とアポなしの税務調査が入った場合の対処法も話し合っておくのもいいでしょう。
税務調査の対応は、税理士の力量によって大きく変わってきます。
弊社は、税務調査を優位に進めるノウハウと交渉力を持っています。
アポなしの税務調査を含めて、
「正しく申告しているか不安・・・」
「税務調査の連絡が入った・・・」
「事前対策はどうすればいいだろう・・・」
「追徴課税を受けそうだけどどうすれば・・・」
など不安がありましたら、お気軽にご相談ください。
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。