2019年10月1日以降、消費税等(消費税及び地方消費税)が8%から10%に引き上げられる予定です。
今回、注目したいのは、1989年の消費税導入以来、初めて導入される”軽減税率”
軽減税率とは、食料品など「生活に最低限必要なもの」については、消費税を軽減する制度を言います。
軽減税率(8%)と標準税率(10%)の適用について表にまとめると次のようになります。
分類 | 軽減税率の適用 | 消費税率 |
---|---|---|
飲食料品 | あり | 8% |
新聞 | あり | 8% |
医薬品・医薬部外品等 | なし | 10% |
酒類 | なし | 10% |
これまで一律だった消費税率が「商品の種類」によって変わってくることが分かります。
軽減税率の導入は消費者だけでなく、事業者にとっても影響が大きい出来事です。
その1つが消費税の納税額を算出するときに「標準税率10%」「軽減税率8%」を区分して計算する必要がある点です。
この記事では、2019年10月1日の軽減税率の導入後、中小業者に認められる消費税額の計算方法の特定措置について解説していきます。
目次
軽減税率で消費税額の計算方法が変わる
2019年10月1日以降の軽減税率導入により消費税額の計算方法も変わります。
通常、消費税額の計算は、次のようになります。
消費税額 =「売上にかかる消費税額 - 仕入にかかる消費税額」 = 「売上額 × 消費税率 - 仕入額 × 消費税率」
例えば、売上高2,160万円、仕入高1,296万円の会社があったとすると、
消費税額 = 2,160万円 × 8% - 1,296万円 × 8% = 160万円 - 96万円 = 64万円
と計算することができ、そこまで複雑なわけではありません。
しかし、2019年10月1日以降の軽減税率導入後は「消費税率8%」「消費税率10%」を区分して計算しなければならず、取引の仕訳などの経理業務が複雑化します。
- 軽減税率8%の売上は1,000万円、仕入れは600万円
- 標準税率10%の売上は1,160万円、仕入れは696万円
といったように区分をして、それぞれの「売上にかかる消費税額」と「仕入れにかかる消費税額」を算出しなければなりません。
税額計算の特例措置
当然のことながら、標準税率10%と軽減税率8%が混在することから会計システムも変更を余儀なくされます。
一応は、国では中小事業者の軽減税率対応を後押しするために
- 複数税率対応レジ
- 電子的受発注システム
- 請求書管理システム
などの導入・改修・入替に対して、掛かった費用の3/4程度を補助金として支援します。
しかし、日々ギリギリの資金繰りで経営している中小事業者にとっては、それでも大きな負担になり得ます。
そのような中小事業者の事情を考慮して、2019年10月1日から一定期間は、消費税額の計算方法に2つの特例措置を適用できます。
1、売上税額の計算の特例
売上税額の計算の特例とは、売上の一定割合を”軽減税率対象品目”とみなして売上税額を計算できる特例です。
これにより売上高に占める「標準税率10%」と「軽減税率8%」の割合を求めることができます。
対象
売上を消費税率ごとに区別することが困難な中小事業者が対象となります。
※計算方法の1つである「小売等軽減仕入割合の特例」は、簡易課税制度と併用できません。
適用期間
特例の適用期間は、軽減税率導入後の4年間(2019年10月1日 〜 2023年9月30日までの期間)となります。
計算方法
売上に占める「軽減税率対象品目の割合」を計算する方法は、次の3つです。
(1)小売等軽減仕入割合の特例
「卸売業・小売業」かつ「仕入れの区分」ができる中小事業者が利用できる特例です。
軽減税率対象品目の”仕入れ”の割合で計算する方法となります。
軽減税率対象品目の割合 = 軽減税率対象品目の仕入額 ÷ 仕入総額
例えば、仕入総額が2,000万円、そのうち軽減税率対象品目の仕入高を800万円とすると、
軽減税率対象品目の割合 = 軽減税率対象品目の仕入額 ÷ 仕入総額 = 800万円 ÷ 2,000万円 = 0.4 = 40%
と計算できます。
- 軽減税率8%の売上高は1,200万円(= 3,000万円 × 40%)
- 標準税率10%の売上高は1,800万円(= 3,000万円 × 60%)
と求めることができます。
(2)軽減売上割合の特例
(1)以外の中小事業者が利用できる特例です。
通常の連続する10営業日の軽減税率対象品目の売上割合で計算する方法となります。
※事業者の任意で10営業日を選択できますが、特別な催しがあった日は含むことはできません。
軽減税率対象品目の割合 = 通常の連続する10営業日の軽減税率対象品目の売上額 ÷ 通常の連続する10営業日の売上額
例えば、通常の連続する10営業日の売上高が120万円、そのうち軽減税率対象品目の売上高を48万円とすると、
軽減税率対象品目の割合 = 通常の連続する10営業日の軽減税率対象品目の売上額 ÷ 通常の連続する10営業日の売上額 = 120万円 ÷ 48万円 = 0.4 = 40%
と計算できます。
- 軽減税率8%の売上高は1,200万円(= 3,000万円 × 40%)
- 標準税率10%の売上高は1,800万円(= 3,000万円 × 60%)
と求めることができます。
(3)50%の特例
(1)(2)の計算が困難な中小事業者が利用できる特例です。
課税売上高の50%を軽減税率対象品目として計算する方法となります。
軽減税率対象品目の割合 = 50%
- 軽減税率8%の売上高は1,500万円(= 3,000万円 × 50%)
- 標準税率10%の売上高は1,500万円(= 3,000万円 × 50%)
と求めることができます。
2、仕入税額の計算の特例
仕入税額の売上の特例とは、仕入れの一定割合を”軽減税率対象品目”とみなして仕入税額を計算できる特例です。
これにより仕入額に占める「標準税率10%」と「軽減税率8%」の割合を求めることができます。
対象
仕入れを消費税率ごとに区別することが困難な卸売業・小売業を営む中小事業者が対象となります。
※売上税額の計算の特例の「小売等軽減仕入割合の特例」および簡易課税制度と併用できません。
適用期間
特例の適用期間は、軽減税率導入後の1年間(2019年10月1日 〜 2020年9月30日までの期間)となります。
計算方法
仕入に占める「軽減税率対象品目の割合」を計算する方法は、次のとおりです。
(1)小売等軽減売上割合の特例
軽減税率対象品目の”売上”の割合で計算する方法となります。
軽減税率対象品目の割合 = 軽減税率対象品目の売上額 ÷ 売上総額
例えば、売上総額が2,000万円、そのうち軽減税率対象品目の売上高を800万円とすると、
軽減税率対象品目の割合 = 軽減税率対象品目の仕入額 ÷ 仕入総額 = 800万円 ÷ 2,000万円 = 0.4 = 40%
と計算できます。
- 軽減税率8%の仕入高は400万円(= 1,000万円 × 40%)
- 標準税率10%の仕入高は600万円(= 1,000万円 × 60%)
と求めることができます。
(2)簡易課税制度
業種ごとに定められる”みなし仕入率”を用いて、売上高から仕入税額を計算する方法になります。
詳しくは、次の記事をご覧ください。
まとめ
税額計算の特例措置をまとめると次のとおりです。
特例の種類 | 小売業・卸売業 | その他の業種 | 簡易課税制度 |
---|---|---|---|
小売等軽減仕入割合の特例 | ○ | ー | 併用不可 |
軽減売上割合の特例 | ○ | ○ | 併用可能 |
50%の特例 | ○ | ○ | 併用可能 |
特例の種類 | 小売業・卸売業 | その他の業種 | 簡易課税制度 |
---|---|---|---|
小売等軽減売上割合の特例 | ○ | ー | 併用不可 |
今回解説した特例措置は、売上額および仕入高の「標準税率10%」と「軽減税率8%」の区分が困難な中小事業者のために設けられています。
あくまでも特例措置のため期間限定にはなりますが、軽減税率導入後の経理業務が適切にできる体制が整うまでは積極的に活用すると良いでしょう。
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。
スポンサーリンク