個人事業主と法人の大きな違いの一つに赤字に陥ったときの税金の支払いの有無があります。
通常、個人事業主が赤字になった場合は、
- 所得税
- 住民税
- 事業税
については、ほぼ発生しません。
上記において唯一税金の支払い義務があるのが住民税(均等割額)となりますが、おおよそ5,000~6,000円となります。
一方、法人で赤字決算になった場合は、最低でも7万円の税金を負担しなければなりません。
この記事では、法人が赤字でも年7万円の税金が発生する仕組みについて解説します。
目次
法人で赤字決算でも7万円の税金が発生
冒頭でもお伝えしたとおり、法人は赤字でも最低7万円の税負担が発生します。
法人の代表的な税金の種類としては、
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
の3つがあります。
このうち、法人の所得(利益)にかかわらず、必ず発生することになるのが法人住民税の均等割です。
法人住民税の均等割とは
法人住民税とは、会社などの法人、収益事業を行う社団または財団に課せられる地方税です。
法人住民税は、
- 法人税割
- 均等割
の2種類に分けることができ、赤字でも納税義務が発生するのが均等割となります。
法人税割は、法人税に「都道府県」および「市区町村」で定められた税率を掛けて計算するため、赤字であれば0円となります。
均等割
均等割は「資本金」と「従業員の数」によって税額が決まります。
例えば、大阪府大阪市の均等割は、次のようにホームページで案内されています。
【大阪府】
法人等の区分 | 均等割(年額) |
---|---|
平成13年4月1日から令和7年3月31日まで の間に開始する事業年度 |
|
資本金等の額が1千万円以下である法人など(※) | 20,000円 |
資本金等の額が1千万円を超え1億円以下の法人 | 75,000円 |
資本金等の額が1億円を超え10億円以下の法人 | 260,000円 |
資本金等の額が10億円を超え50億円以下の法人 | 1,080,000円 |
資本金等の額が50億円を超える法人 | 1,600,000円 |
【大阪市】
法人の均等割の税率 | |||
---|---|---|---|
法人の区分 | 従業者の数の合計数 | 税率(年額) | |
1 | (1)法人税法第2条第5号に規定されている公共法人で均等割が課税されるもの (2)地方税法第294条第7項に規定する公益法人等で均等割が課税されるもの (3)人格のない社団または財団で収益事業または法人課税信託の引受けを行うもの (4)一般社団法人・一般財団法人(非営利型を除く。) (5)法人で資本金の額または出資金の額を有しないもの |
従業者数に かかわらず 50,000円 |
|
2 | 資本金等の額が1,000万円以下の法人 | 50人以下 | 50,000円 |
50人超 | 120,000円 | ||
3 | 資本金等の額が1,000万円を超え1億円以下である法人 | 50人以下 | 130,000円 |
50人超 | 150,000円 | ||
4 | 資本金等の額が1億円を超え10億円以下である法人 | 50人以下 | 160,000円 |
50人超 | 400,000円 | ||
5 | 資本金等の額が10億円を超え50億円以下である法人 | 50人以下 | 410,000円 |
50人超 | 1,750,000円 | ||
6 | 資本金等の額が50億円を超える法人 | 50人以下 | 410,000円 |
50人超 | 3,000,000円 |
上の表に当てはめると均等割は、
- 大阪府:20,000円
- 大阪市:50,000円
の合計70,000円となります。
これは、法人で赤字決算の場合でもかかってくる税金であり、原則、事業所を置いて営業活動を続けている限り、赤字でも免除してもらうことはできません。
法人は赤字決算でも消費税の納税義務は発生する
赤字法人でも一定の条件を満たした場合は、消費税の納税義務が発生します。
具体的には、
- 2年前の”課税売上高が1,000万円超”
- 1年前の上半期(6ヶ月間)の”課税売上高が1,000万円超”かつ”給与等の支払総額が1,000万円超”
のいずれかの条件を満たしたときに課税事業者となり、消費税を納税する義務が発生します。
ただし、インボイス制度の適用などで課税事業者を選択した場合は、赤字でも消費税の納税義務が発生します。
消費税の仕組み
消費税とは、日本国内でモノやサービスを消費したときに発生する税金です。
事業者における消費税の納税は、
- 標準税率10%
- 軽減税率8%
として商品やサービスに上乗せして”お客様から預かった消費税”を国に納付する仕組みです。
すでに顧客から税金を受け取っている以上、赤字であろうと課税事業者である限りは、消費者に変わって国に納税する義務があります。
消費税が還付されるケースもある
事業者は、消費税を納付するだけでなく、一定条件に当てはまることで還付を受けることも可能です。
特に赤字法人の場合は、消費税の還付を受けられるケースが高くなっているので条件を把握しておきましょう。
まず、消費税の計算方法は、次のようになります。
消費税の納税額 = 預かった消費税 - 支払った消費税
預かった消費税とは、商品の販売などをしたとき消費者から預かったお金です。
支払った消費税とは、事業者が仕入れなどをしたときに支払った消費税であり、仕入税額控除(課税仕入にかかる消費税額を控除)が当てはまります。
例えば、売上高1,300万円(内消費税130万円)、仕入高1600万円(内消費税160万円)の会社があったとします。
このとき消費税の納税額は、
納付消費税額 = 130万円 - 160万円 = -40万円
のマイナスとなり、40万円の還付金を受け取ることが可能です。
ただし、免税事業者や消費税の申告方法を「簡易課税」にしている場合は、消費税の還付は受けられないので注意しましょう。
消費税の還付の条件については、次の記事でも詳しく紹介しているので是非参考にしてください。
消費税を節約できるケースがある
消費税の還付を受けられない場合は、簡易課税も検討してみましょう。
簡易課税は、消費税の申告方法の一つであり、課税売上高5,000万円以下の事業者が利用できます。
大きな特徴は、
- 「支払った消費税」の計算が不要な点
です。
簡易課税では、「預かった消費税」に「みなし仕入率」を掛けて「仕入控除税額」を算出して納税額を計算することになります。
計算方法は、次のとおりです。
消費税の納付額 = 「預かった消費税 - 預かった消費税 × みなし仕入率」 = 「預かった消費税 - 仕入控除税額」
みなし仕入率は、業種ごとに次のように定められています。
みなし仕入率 | 該当する事業 |
---|---|
90% | 卸売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業)をいいます。 |
80% | 小売業(他の者から購入した商品をその性質、形状を変更しないで販売する事業で第一種事業以外のもの)をいいます。 |
70% | 農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含みます。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業をいい、第一種事業、第二種事業に該当するもの及び加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を除きます。 ※2019年10月1日よりみなし仕入率は80%となります。 |
60% | 第一種事業、第二種事業、第三種事業、第五種事業及び第六種事業以外の事業をいい、具体的には、飲食店業などです。 なお、第三種事業から除かれる加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業も第四種事業となります。 |
50% | 運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業に該当する事業を除きます。)をいい、第一種事業から第三種事業までの事業に該当する事業を除きます |
40% | 不動産業 |
参考:国税庁「簡易課税制度の事業区分」
原則課税と簡易課税の計算シミュレーションなどは、次の記事で紹介しています。
法人で赤字決算のときに発生しない税金
法人住民税の均等割については、赤字法人でも税金が発生します。
一方、法人が赤字決算の場合は
- 法人税
- 法人住民税の法人税割
- 法人事業税
については、税金が発生してきません。
法人税
法人税とは、法人が事業活動によって収益(=所得)を得たときに課税される税金です。
法人税は、個人の所得に対して課税される”所得税”に相当する税金であり、法人の所得が増えるほど負担額が大きくなる特徴があります。
計算方法は、次のとおりです。
法人所得税 = 課税所得 × 税率 – 所得税額控除
課税所得は「益金 – 損金」で算出することができ、赤字の場合は0円となります。
そのため、法人で赤字決算となった場合は、法人税が発生しません。
法人住民税の法人税割
法人住民税の法人税割とは、法人税に税金を乗じて計算できる税金です。
計算方法は、次のようになります。
法人税割 = 法人税 × 市町村民税の税率 + 法人税 × 道府民税の税率
赤字法人で法人税がゼロとなっている場合は、法人住民税の法人税割も発生しません。
法人事業税
法人事業税とは、都道府県に事務所、事業所を設けて、事業を営む法人に課される税金です。
法人事業税の計算方法については「法人税」や「法人住民税」と比較して複雑となっていますが、法人の収益(=所得)に応じて課税されるのは共通です。
そのため、赤字法人で課税所得がゼロとなっている場合は、法人事業税は発生しません。
法人で赤字決算なら節税対策をしよう
法人で赤字決算の場合であっても節税対策をすることは可能です。
欠損金の繰越控除ができる
法人で赤字決算になった場合は、その赤字(=欠損金)を翌年以後の最長10年にわたって”将来の黒字”と相殺することが可能です。
条件は、
- 欠損金が生じた事業年度に「確定申告書(青色申告)」を提出している
- その後の各事業年度に連続して「確定申告書(青色申告または白色申告)」を提出している
となります。
例えば、ある事業年度に1,000万円の赤字が発生したとしましょう。
そして、翌年に600万円の黒字が発生した場合は、1,000万円のうち600万円を相殺して所得金額をゼロにできます。
利益 | 所得 | 法人税 | |
---|---|---|---|
1年目 | -1,000万円 | 0円 | 0円 |
2年目 | 600万円 | 0円 (繰越欠損金残高400万円) |
0円 |
3年目 | 500万円 | 100万円 (繰越欠損金残高0円) |
30万円 |
4年目 | 500万円 | 500万円 (繰越欠損金残高0円) |
150万円 |
※実効税率30%として法人税を計算しています。
ただし、資本金1億円以上の大企業については、赤字が生じた場合であっても50%までしか翌年以降に繰り越せないので注意しましょう。
役員報酬の見直しをしよう
法人で赤字決算が続くことが予想される場合は、役員報酬を見直してみましょう。
赤字法人で
- 法人税
- 法人住民税(法人税割)
- 法人事業税
などの税金が発生しない場合でも役員報酬が高額であれば税金が高くなります。
なぜなら、役員報酬は、従業員の給与と同じく、所得が高ければ高いほど税率が上がっていく累進課税が適用されるからです。
次は、所得税の計算方法です。
所得税 = 課税所得 × 税率 – 税額控除額
この税率の部分に当てはまるのが次の計算式となります。
課税される所得金額 (課税所得) |
税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
出典:国税庁ホームページ
上記を見ていただければ分かるとおり、課税所得(= 給与収入 – 非課税所得 – 所得控除)が増えるほど、税率が5 → 45%と上がっていきます。
そのため、法人が赤字決算になった場合は、役員報酬を下げて所得税の税率を下げるように調整すると良いでしょう。
例えば、課税所得を700万円から600万円に下げた場合は、所得税は次のようになります。
- 課税所得700万円 → 所得税97万4,000円
- 課税所得600万円 → 所得税77万2,500円
この他、住民税や社会保険料などの負担も大きく下げることが可能です。
ただし、役員報酬の決め方には、いくつかのルールもあるので変更するタイミングなどには気をつける必要があります。
最後に
法人は、個人事業主と違って赤字でも最低7万円の税金が発生します。
そのため、新しく事業を始めたり、法人成りするときは、会社を設立する必要性も考慮しましょう。
また、法人が赤字であっても欠損金の繰越控除や役員報酬の見直しにより節税対策を行うことが可能です。
特に役員報酬については「通勤手当の支給」「役員社宅」「配偶者を非常勤役員」にするなど、さまざまな節税対策が可能です。
弊社では、税金を安くしたいがあまり、虚偽や不正を働くことは長期的にマイナスにつながると考えていますが、意味のある節税対策は積極的に行うべきだと考えています。
大阪、京都、神戸限定にはなりますが、「認められた方法かつ最小限の手間で税金を安くするにはどうすればいいの?」などありましたら、私たちにお気軽にご相談ください。
この記事の監修者
尾鼻 純
営業で多様なお客様と接する機会も多いですが、税金のことはもちろんのこと、あらゆる人脈を駆使してプライベートも含めたどのような相談にものれるよう心掛けております。これまで様々な困難な税務調査をクリアしてきました。税務署とは社長が納得されるまで徹底的に交渉させていただきます。
※本記事は、芦屋会計事務所 編集部によって企画・執筆を行いました。
※記事の執筆には細心の注意を払っておりますが、誤植等がある場合がございます。なお、執筆時から税法の改正等がある場合がございますので、最新の税法については顧問税理士等にご確認ください。